原 正樹
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『老いぼれを燃やせ』 マーガレット・アトウッド (著), 鴻巣 友季子 (翻訳) すんごく面白かった。所収九篇のうち、二篇二人の主人公が、ファンタジーとホラーという「B級」と扱われるジャンルの小説家として若い時に成功しそれを超えられずに老年を迎えている。のはなんでかな。
『老いぼれを燃やせ』 2024/9/19 マーガレット・アトウッド (著), 鴻巣 友季子 (翻訳) Amazon内容紹介 本の帯 表面 ここから僕の感想 面白かった。それは『獄中シェイクスピア劇団』の感想文を書いたことと似ているのだが。そのときの感想文から。 帯を読むとさ、「ディストピア小説」の作者が、なんか政治的な意味での老人問題の怒りとかなんとかを辛辣なユーモアで描いた、暗い辛気臭い小説みたいに思っちゃうじゃんね。違うと思う。全然違う。 『侍女の物語
『少年が来る』ハン・ガン (著), 井手 俊作 (訳) 読むだけでこれだけ重たい。書いたハン・ガンさんの心に与えた影響はいかばかりか。この作品を中心に前後の主要作品を読んでいくのがいいように思われた。それほど重要。
『少年が来る』 (新しい韓国の文学 15) 2016/10/27 ハン・ガン (著), 井手 俊作 (翻訳) Amazon内容紹介 本の帯 表 本の帯 裏 ここから僕の感想 なぜハン・ガン氏にノーベル賞が贈られたのかということは、実はここまで『菜食主義者』を読んでも『すべての白いものたちの』を読んでも、あんまり腑に落ちていなかったのだが、これを読んで、それはそうだ。と心の底から思った。 これほどの重さを持つものを書いたことが、これ以降の作品執筆につながってい
『ガラスの街』ポール オースター (著), 柴田 元幸 (翻訳) いろいろ事情があって読んでみた。出世作らしく、やりたいことてんこ盛りで途中で破裂、みたいな小説でした。ポストモダン思想、文学の時代だったとはいえ、それはあんまり。
『ガラスの街』 (新潮文庫) 文庫 – 2013/8/28 ポール オースター (著), Paul Auster (原名), 柴田 元幸 (翻訳) Amazon内容紹介 ここから僕の感想 この前、すごい老人になって記憶も定かでなくなったポール・オースター本人が若いときに書いた自分の小説の登場人物たちに監禁される、という小説『書字室の旅』を、若い時書いた小説代表作というのを全然読んでいないのに、間違って読んでしまった。ので、ちょっとあの登場人物たち、どんな小説にどんな人
『ほんのささやかなこと』 クレア・キーガン (著), 鴻巣 友季子 (翻訳) 中篇というか、ほぼ短篇なのだけれど、「ブッカー賞候補史上最も小さな本の一つ」として愛されているの納得の傑作。アイルランドにおけるキリスト教と社会と倫理についていろいろ考えさせられました。
『ほんのささやかなこと』 単行本 – 2024/10/23 クレア・キーガン (著), 鴻巣 友季子 (翻訳) Amazon内容紹介 本の帯 表 ここから僕の感想 まず、ちょっとだけ鴻巣友季子さんによる「訳者あとがき」を引用する。 そう、この小説の本当にすごいところは、まさにここで書かれている通り、「政治的著作を芸術にまで昇華させた」、それを「百二十ページのノヴェラ(中篇)」で成し遂げた、という点になのである。 中篇といっても、短篇小説に近い。長さだけでなく、
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アメリカ大統領選、投票開始前から、結局トランプの勝ち、CNNお通夜状態から日本の報道番組まで、テレビで見続けていた間の、Facebook投稿転載。保存・記録用。
11月5日 1昼の12時くらい 今日の午後からCNNは大統領選特番に突入。ずっとつけっぱなしにしておくことになる。 世界の民主主義度を比較するランキング(世界銀行のWORLDWIDE GOVERNANCE INDICATORS 2023)アメリカは57位。日本の42位より低い。 英国エコノミストの調査部門のランキングでも、日本16位に対してアメリカは29位。 世界のなかでの位置づけも、不完全な民主主義国家、「欠陥民主主義」の位置付け。民主主義国家の盟主みたいな振る舞いをす
『すべての、白いものたちの』 ハン・ガン (著), 斎藤 真理子 (翻訳) はじめすいすいと読めてしまうのだけれど、後ろについている斎藤真理子さんの「捕捉」を読むんでからもう一回読むと、頭がぐるぐるしてきて、不思議な気持ちになります。
『すべての、白いものたちの』 (河出文庫 ハ 16-1) 2023/2/4 ハン・ガン (著), 斎藤 真理子 (翻訳) Amazon内容紹介から ここから僕の感想 たしかに、僕は『菜食主義者』から読んじゃったのでびっくりしてしまったのだが、こっちから読んだら印象はだいぶ違った。そしてここから(僕はまだ読んでいないのだが『少年が来る』を読むのが正解なんだと思う。そうすると、ノーベル文学賞、なるほどたしかに、となるのだと思う。 死んでしまった者と生きている側の、そ
『写字室の旅/闇の中の男 』(新潮文庫)ポール・オースター(著),柴田元幸(翻訳) 老い衰えていく中での「小説を書くこと」と、実人生と文学作品の中で入り組む「パートナーや家族との愛と性」「国の歴史や政治の暴力」、その関係性を何重にも折りたたんで小説にしていく。老いがひときわ身に染みる二篇でした。
写字室の旅/闇の中の男 (新潮文庫) 文庫 – 2022/8/29 ポール・オースター (著), 柴田 元幸 (翻訳) Amazon内容紹介 ここから僕の感想 この前、人生初ポール・オースター『ムーン・パレス』を読んで、ますまず面白かったので、 次、もう一冊と思い、普通なら、出世作ニューヨーク三部作なる『ガラスの街』『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』というのを読むのが普通だろうなあと思ったのだが、Amazonレビューだったかツイッターだったか、いろいろ読んでいたら「
『脳と音楽』 伊藤 浩介 (著) いや、脳の話より、二章、内耳の基底膜の物理的特性がもとになって、三章、音から音階へ、四章 ドレミファソラシド、各種音律が成立する部分が圧倒的に面白い。タイトル不適切、だが本は面白いぞ。
『脳と音楽』 2024/10/10 伊藤 浩介 (著) Amazon内容紹介 ここから僕の感想 編集者かなあ、タイトルつけたの。「脳と音楽」か。そうじゃないだろ。というのがまず感想かなあ。いやあ、本はすごく面白かったのだが。 たしかに著者は脳学者なんだがな。 角野隼斗氏(反田恭平さんが準優勝したときのショパンコンクールでセミファイナルまで進んだ新進気鋭のピアニストであると同時に、開成から東大情報工学大学院で情報工学を研究し、かつユーチューバーでもある、いろん
「小泉今日子40周年」NHK特番を見て「優しい雨」が最高傑作と再確認感動して、作曲者鈴木祥子さん歌唱のYouTube動画見たら、一か所コードと旋律が小泉版と違うの発見しての考察。
2024年10月23日Facebook投稿をコピペ。 そして、YouTubeでまず小泉今日子の正式PVを鑑賞。 続いて作曲者、鈴木祥子さんが、アコギ名手吉川忠英氏の伴奏で歌う動画を鑑賞。 おや。なんか、一か所、当たっているコードが違うぞ。旋律も違うぞ。 サビ直前、歌詞で言えば1番なら「駅に向かって」の 「むかあーって」のあー、のところ。 曲の調は、小泉さんも鈴木さんも一緒、基音G#、アコギでなら吉川氏もカポ1でGで弾いている。のでここから先はト長調に変換して音程やコ
『ウクライナ動乱――ソ連解体から露ウ戦争まで 』ちくま新書 松里公孝 (著) 北海道大学でこの本をめぐるセミナーがあったと友人が教えてくれた。せめて本だけでもと読んでみた。新書なのに500ページ!!この戦争理解の解像度が上がる。おすすめ。
『ウクライナ動乱 ――ソ連解体から露ウ戦争まで 』(ちくま新書 1739) 新書 – 2023/7/6 松里 公孝 (著) Amazon内容紹介 これではなんだかよく分からないよなあ。Amazonだとレビューに非常にうまく内容、ポイントをまとめているThomasGGさんという方がいるので、この方のAmazonレビュー参照されるのがいいと思います。 僕なりに、本書最終章から、著者の基本スタンスがわかる部分をいくつか引用。 ということで、著者、松里教授は、2014~の
『トリホス将軍の死』グレアム グリーン(著),斎藤 数衛(訳) パナマ運河、アメリカに権益も周囲の土地もまるごと永遠に支配されていた運河協定。その改定を成し遂げたパナマのトリホス将軍とグレアムグリーンの交友の記録。
『トリホス将軍の死』1985/10/1 グレアム グリーン (著), 斎藤 数衛 (翻訳) Amazon内容紹介は無いので本の帯、裏表 ここから僕の感想 読書師匠・しむちょんが教えてくれた本。いやもうなんとも言えぬ読後感。自分ではおそらく読むことのなかったろうこういう素晴らしい本を、読書師匠は教えてくれるのである。感謝。 イギリスの有名小説家グリーンとトリホス将軍、その側近おつきのチュチュ(元大学の哲学と数学教授で詩人で軍の軍曹で要人の護衛や運転手をする、現地での
『ムーン・パレス』ポール・オースター(著),柴田元幸(翻訳) 村上春樹がノ―ベル賞取り損ねた上にツイッター上でバッシング浴びている中、今さらながら人生初ポール・オースター、読んでみたら、あらまあ面白かった。すんごいアメリカ文学だった。
『ムーン・パレス』 (新潮文庫) 文庫 – 1997/9/30 ポール・オースター (著), Paul Auster (原名), 柴田 元幸 (翻訳) Amazon内容紹介 ここから僕の感想 今年の4月にポール・オースターは亡くなっているのだが、訃報・追悼の記事をちらと見て「そういえば一冊も読んでいないなあ」と思って。なんで読んでいないのかなあ。そう思いつつ忘れていたのだが。 ノーベル賞の季節となり、今年も村上春樹は受賞できず、ハン・ガンの受賞とともに、どうしたわ
『朝と夕』ヨン・フォッセ(著), 伊達朱実(訳)昨年2023年のノーベル文学賞ヨン・フォッセの小説がつい二か月ほど前にやっと出版されたので読んでみた。今の私の心にあまりに深く響いた。余韻でしばし何も言いたくない。が感想は書く。(ちょいネタバレあり)
『朝と夕』 単行本 – 2024/8/26 ヨン・フォッセ (著), 伊達朱実 (翻訳) Amazon内容紹介 本の帯の裏面 ここから僕の感想 昨年のノーベル文学賞受賞者ヨン・フォッセは戯曲の方が有名だということで、昨年の受賞時点では日本語訳になっているのは代表作の戯曲『だれか、来る』一冊しかなかった。僕は戯曲を読むのが苦手(というか、詩も苦手、小説しか読まないのだな、考えて見れば)ので、それは読まなかったのだが、一年たって、次のノーベル賞が話題になるころ、やっと
『菜食主義者』ハン・ガン(著), 川口恵子(編集), きむ ふな(翻訳) ノーベル文学賞受賞ニュースで、「あれ、買った記憶あるけど読んでない」と思ったので本棚探して読んでみた。ノーベル賞選考理由通り、ユニークな意識と詩的文体の、短いけれど重ため小説でした。
『菜食主義者』 (新しい韓国の文学 1) 2011/6/15 ハン・ガン (著), 川口恵子 (編集), きむ ふな (翻訳) Amazon内容紹介 ここから僕の感想 今年のノーベル文学賞の人の本、前に買って積読で読んでない気がする、と思ってAmazonで検索したら、この本を2022年2月に購入していた。ということはどこか本棚か段ボール箱の中にあるはずと探したら、あった。 ので、さっそく読んでみた。活字大きいしゆったり組んであって本文290頁、100頁前後の中篇
『動物農場』〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫) ジョージ・オーウェル (著) 山形浩生 (翻訳) 巻末付録「報道の自由:『動物農場』序文案」「ウクライナ版ヘの序文」「訳者 あとがき」含めて面白いので、この文庫で読むこと、おすすめ。
『動物農場』〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫) 2017/1/7 ジョージ・オーウェル (著), 水戸部功 (イラスト), 山形浩生 (翻訳) Amazon内容紹介 ここから僕の感想 この本、巻末に 「報道の自由:『動物農場』序文案」 「ウクライナ版ヘの序文」 (この二つはオーウェル自身の書いたもの) 「訳者 あとがき」 (これは山形浩生さんによる)、この三つがついているのが素晴らしい。なぜどこがどう素晴らしいのかということを紐解きつつ、感想文を進めようと思う。
『サンクチュアリ』(新潮文庫)フォークナー(著)加島祥造(訳) 酔っ払い若いバカップルが犯罪者巣窟に迷い込んでという今のアメリカンB級映画の元祖みたいな導入から、後半はヒューマン裁判ドラマみたいになるかと思いきや、やっぱりフォークナーな暴力爆発する。代表作じゃあないな。問題作である。
サンクチュアリ(新潮文庫)フォークナー(著)加島祥造(訳) Amazon内容紹介 ここから僕の感想 フォークナーをとりあえず手に入る文庫や単行本で読み継いで、残っていたこれを読んだ。新潮文庫ではこれと『八月の光』と『フォークナー短篇集』しかないので、たしか学生時代に買った記憶があるのだが、見つからないので買い直した。 話はちょっとズレるが、僕の高校生かから大学生時代(今から40年以上前)、各社文庫のイメージで言うと、なんといっても文学といえば、新潮文庫が王道。岩波