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【毒親育ちの育児】息子に「幸せって、どんな時だと思う?」と聞いてみた話。

私は30代の半ばまで、「幸福とは、そういう状況を指す言葉であって、自分の感情とは関係ない概念である」と思い込んでいた。
――という話を昨日書いた。

今日、息子の手足の爪を切りながら、ふと思いついて息子に聞いてみた。

「息子は、『幸せ』ってどんな時だと思う?」

「なんでぽよ?」とちょっと首を傾げた息子は、こう答えてくれた。

「ゲームをしてる時、タブレットを見てる時、ママにぎゅーしてる時、美味しいもの食べた時、海とかみたいに楽しい所に行ってる時、そういう『いい時』のことぽよ!」

――あぁ、良かった。
息子はちゃんと、『幸せ』が「自分がそういう感情でいられる時間のこと」だと知っている。
この子はきっと、大丈夫だ。
ちゃんと『幸せ』を求められるし、きっと『幸せ』を見失うことなく生きていける。

そう思ったら、不覚にも涙が出てきてしまった。
息子の爪を切るために俯いているので、TV画面を見ている息子には見えない。大丈夫。

「なんでそんなこと聞いたぽよ?」

「んーとねぇ、息子がどう思うか聞いてみたいなって思って。ママは『幸せ』がどういう時か、長いこと分からなかったんだよ」

「なんでぽよ?普通分かるぽよ!人間なら誰でも分かるでしょ~」

「そうだね、普通分かるよねぇ。でも息子がちゃんと分かってて良かったよ。えらいよ?」

「ぽよ」

爪を切り終わったので息子の足を開放すると、彼は中断していたゲームに戻って、いつものようにカービィを操作し始めた。今日はスマブラらしい。私が涙目で鼻水を垂らしているのがバレなくて良かった。

――私が9歳の頃、もし誰かにそう問われることがあったら、私は何と答えただろうか。
きっと、答えられなかっただろうと思う。
あるいは、「ほわほわーってなる時?」のような漫画的な表現で、自分の実体験とは別のものを想像して答えつつ、誤魔化そうとしただろう。
もし質問者が誤魔化されず、真剣な回答をする必要があった場合も、「元気な事とか、困ってない事とか」といった「不幸でないとされる状況」を答えたに違いない。

でも、息子は大して悩みもせずに、息子自身の「いい時」をきちんと羅列で来た。
「自分がポジティブな感情でいられる時間」を『幸せ』と呼ぶのだと、息子は体験として知っている。理解できている。

それは今の私にとって、とてもとても嬉しいことだ。
知らなかった、体験として知りえなかった過去の自分を思うと、悔しさや悲しみを感じることでもあるけれど。
それでもやはり、自分の子供がそれを知っているのは、私の喜びで、自分が「普通の親」をやれているという安心で、達成感で――
紛れもなく今の私は幸福だと、そう感じた。


そういえば昔作った初音ミク曲の歌詞で、私は幸せについて書いていたな、と思い出して、久しぶりに聞き返してみた。

君の笑顔や 不器用な涙も
そばで見られる今を 僕は
"幸せ"と呼ぼう

いかにも分かったようなことを言っているが、幸せを「状況に対して、そう定義するもの」だと認識していて、「感じる」ものだとは思っていなかった、という過去の自分の概念が非常によく分かる歌詞である。

ついでに言うと、ラブソング風の雰囲気を醸し出しているが、SE退職と連動した大失恋からまだ立ち直れていず、創作で現実逃避をしていた時期だった。よってこの「君」は誰だったかと言われれば、完全なイマジナリー恋人というか、それ以前の元カレたちや、当時の周囲の人々全てをキメラ化したような概念の存在である。切ない。
ただ、当時の私は外から見える状況的に不幸な状態だったし、母にもそう言われていたのでそう認識していたが、体感としては当社比でそれなりに幸せな時期でもあった。
毒の存在にすら気付いていなかった頃の話なので、今の安定には到底及ばないけれど。

あれから、12年。
本当に色んなことがあった。
でもどうあれ、何かを「幸せと呼ぶ」必要がなくなった今の自分を、私は心から幸せだと「感じて」いる。感じられている。

私の中の小さな子供は、そろそろ息子に追いつけただろうか。
いや、まだかもしれない。少なくとも幸福に関しては、息子の方が先輩なような気がする。
ただ、それでもきっと構わないし、私だってきっと何とかなる、何とか出来るのだろう。そう思う。

息子よりも知らないことが多いのかもしれない私が、彼の親として、成長の邪魔をしないように振舞えるのかは、まだ分からないけれど。
それでも、母が私に習得の機会をくれなかった幸福の概念を、息子がきちんと自分で見出せているというのは、とても有難いことでもあるし、私が誇りに思って良いことなのだと思う。

かつての私の持ち得なかった概念を持ち、かつての私とは違う世界観で生きているだろう息子の背中を見守りながら、これからもこっそり色んな事を、学ばせてもらおうと思う。


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