国語・標準語・言文一致体は、もちろん同じものではないが、この論考の中で、これらを厳密に分けて論じることをしなかった。
日本の近代国家が成立する過程で、これらは相俟って進んだ。それらを厳密に区別して定義することは可能だろうが、そうした時、国語・標準語・言文一致といった言葉が飛び交った時代のダイナミックさは失われてしまうように思います。
Wikipediaの標準語(2024.2.3)では
とある。
国語・標準語・言文一致が相俟って進んだ様子がこの短い文からも分かる。
言文一致の代表的論客の一人だった山田美妙は「言文一致論概略」の中で
という想定した言文一致への反論に対して、
とし
と述べています。
ここには方言への蔑視と東京語の優位性の意識、俗語に対する普通の言葉・語法という標準語に通ずる志向性が見られる様に思います。
また明治後の日本の国語学の祖ともいえる上田万年は「標準語に就きて」の中で標準語について
と標準語を定義して
後段では
言っています。
山田美妙の主張との類似性は明らかだと思います。
そして上田万年にとって標準語は文学や文章と切り離せないものです。
上田は外国の状況について
と述べ、日本について
と述べています。
これも
と云う山田美妙と軌を一にしています。
そして、多くの文学者が東京語を元にした言文一致体の作品を書いて行ったことは、歴史が示す通りです。
このような国語・標準語・言文一致の関係について詳しく論じたものに、イ・ヨンスク『「国語」という思想』という優れた著書があります。
引用文献: ①『山田美妙集 第九巻』(全12巻)
2014年5月31日 初版発行
編者: 『山田美妙集』編集委員会
発行所: 株式会社 臨川書店
「言文一致論概略」初出:1888年(明治21年)2月25日発行「学海之指針」第八号及び3月25日発行第九号
②『国語のため』東洋文庫808
2011年4月25日 初版第1刷発行
著者: 上田万年
校注者: 安田敏朗
発行所:株式会社 平凡社
参考文献:『「国語」という思想』
1996年12月18日 第1刷発行
2002年9月5日 第11刷発行
著者: イ・ヨンスク
発行所: 株式会社 岩波書店
この記事は↓の論考に付した注です。本文中の(xxxvi)より、ここへ繋がるようになっています。