「どこでも子ども地域おこし協力隊」を募り、都市部の小学生と奈良の秘境を繋げた結果「わきまえない」アイディアに私の視野が広がった。
私は現在、暮らしの延長のような旅をしたいと考えて夫と子ども二人とともに観光地ではない地方に家族ごとまるっと短期滞在をしたりしながら暮らしている。(拠点は千葉県!)
昨年12月から始めた車で巡るこの旅も9カ月目に入り、車の履歴を見ると、これまで27県を通ってきたようだ。
27県といっても県の中には当たり前だけど様々な地域があって、1週間や10日くらいの滞在ではその地域の一部しか知ることはできない。
帰れる場所を増やしたいと思っていたけれど、「ただいま」と帰れるほどに地域と関わり地域を知るということは、とても長く面白い道のりなんだなと感じている。
私たち家族が滞在先でしていることは、主に地元の食材を使った自炊&散歩&地域の人との交流&仕事&時々家族げんかだ。
普段私はライターやイベントの企画・運営、講師のほか、千葉県に6スクールある学童「ナナカラ」のアドバイザーをしているのだが、今回はナナカラで子どもたちと取り組んだプログラムが私にとって胸熱なものになったため書き残しておきたいと思う。
わきまえないアイディアとはどんなものだっただろうか
家族で旅をしていると、私たち大人はもちろん、都市部に住む我が子たちが言葉をなくすほど感動する地域が現れる。
そんな地域を、自分が関わっているナナカラの子どもたちにもぜひ伝えられないかと常々思っていた。
また、観光地ではない地域に行くたびに目や耳にする地域課題を、大人だけで考えることには限界があるように感じていた。
大人だけで考えているとどうしても課題がさらに難しいものになるように思う。
少なくとも、笑顔で地域課題について話す機会はない。
それはそうなのだ。
「予算は?」
「費用はどこから?」
「実際に誰がやる?」
以上のことは、どうしたって大人である以上考えなくてはいけない。
「口にする責任」がアイディアを狭めさせているように感じていた。
地域課題を解決するアイディアを考える際に
「言うだけならタダだもんね」
の精神がもう少し必要なんじゃないかと思っていても、
大人だからこそ気軽に言えないということがあるんじゃないだろうか。
大人だからこそ、わきまえたアイディアを出さなきゃいけないと思うことが私にはあった。
ここに、子どもの自由な視点を入れてみたらどうなるんだろう。
制限のない、「わきまえない」アイディアとはどんなものだっただろう。
そんなことを考えたらどうしても試してみたくなり「どこでも子ども地域おこし協力隊」という企画を提出していた。
この企画を快諾してくれて、全面協力してくれた市進教育グループが運営する学童「ナナカラ」と奈良県吉野郡下北山村の村役場の皆さまに心から感謝したい。
村の課題解決に取り組む「子どもエージェント」を募集
はじめに、村の課題解決に取り組んでくれる「エージェント」を募集した。
「なーんだ、社会科の勉強かぁ」
と子どもたちに思われないためにはどうしたら良いだろう。社会に興味がない子には響かない可能性が大いにある。
(かくいう私も、大人になった現在「社会に興味があるか」と聞かれたら即答できない)
どうしたら興味を持ってもらえるだろうか…。
考えていても思いつかないので、ひとまずネーミングだけでもワクワクするようなものにしよう。
子どもたちには「エージェント」として、「ミッションクリア」を目指してもらうことにした。
依頼したのは渡部なのだが、この方が格好がつくので下北山村役場の方を依頼人にさせてもらった。ありがとう…!
課題解決を「ミッション」にするだけで「なんかかっこいいじゃーん」と思ってしまうのは、私がいまだに中二病を引きずっているからではないと信じたい。
村の困りごとはあえて子ども用にしない
解決してほしい村の困りごとは、あえて子ども用に簡単にはしない。
下北山村役場の方に「子どもに解決してもらいたい課題をいくつか欲しい」と伝えたところ、大人が普段頭を悩ませている課題がそのまま返ってきた。
自身の質問を反省したとともに、とても嬉しかった。
子どもと大人とで課題が変わるわけがない。
「子どもにはこの課題は無理だろうな」とぼんやりと考えてしまっていたのは私だった。
子どもが考えるからといって、子ども用に課題をチョイスしたりカスタマイズしない下北山村役場の方の想いが嬉しかった。
課題解決に使用するアイテムの提示
アイテムを使ってミッションクリアに挑むことで、「社会科の勉強」感が緩和されたように思う。
「ここにあるアイテムはほんの一部。自分で調査して新たなアイテムを見つけてほしい」という言葉に、ガッツポーズをしている子がいた。
そうだ、ガッツポーズをして大人も宝探しを楽しめばよかったんだ。
ゲーム風でゲームじゃない。そのリアルさに興味を抱く子も。
ゲーム風のスライドにしてみたが、この企画はリアル。
「本当にアイディアが採用されて一つの村を救うきっかけになるかもしれない」し、
「採用されない可能性も高い」。
そのリアルさに興味を抱いてくれた子も多かったようだ。
さて。
エージェント募集に手は上がるのだろうか。なんだかんだで結構難しいことを言ってしまっているように思う…。
そんな不安も瞬時に消えた。
小学2年生から5年生の多くの子がエージェントに立候補してくれたのだ。
嬉しい以上に、まずはホッとした。
調べたアイテムやアイディアの数は6スクールで100以上に
ここからの2ヶ月は、ナナカラのスタッフの方々や下北山村役場の方のサポートのもと「奈良県下北山村」が具体的にはどこにあって、他にはどのようなアイテム(お宝)が隠されているのかなどを子どもたちが自ら調査し、調査内容やアイディアは各スクールの壁にどんどんポストイットされていった。
ポストイットの数は6スクールで100以上。
頭を悩ませた分だけ特別な地域になる
最初は
「木で家をつくる」
「木で柵をつくって動物を捕まえる」
「マンションをつくる」
「森でイベントをする」
など、まだ少しぼんやりとしてきたアイディアも、エージェント会議を重ねることで輪郭がはっきりしてきた。
・そのアイディアは誰が笑顔になるアイディア?
・そのアイディアが実現した後の未来はどうなる?
・遠く離れた下北山村がどんな場所ならみんなは行きたくなる?
・エージェントのみんなにとって、離れていてもわざわざ行きたくなる場所とは?
・イベントはイベントでもどんなイベント?
・ワクワクする家ってどんな家?
もう一歩深く考えてもらえるように質問を重ねる。
子どもたちはなかなかに頭を抱えていたようだが、頭を抱えてくれている様子が私はとても嬉しかった。
頭を抱えれば抱えるほど、その地域が自分にとって特別な場所になるということを、私はほんのすこし知っている。
誤解を恐れずに言えば、意見はまとまらなくても良いと思っていた。
大人でも、地域を元気にする方法ははっきりと分からないのだ。
大人でも分からない問題を子どもの力も借りて一緒に考えようとしたのが今回の企画であって、この企画で「超長期的な関係人口を構築していけたら最高じゃん」という夢見て考えた企画なのだ。
時間がかかりすぎて気が遠くなるかもしれないが、日本の地域課題を子どもの頃から楽しく自分事にしていけたら素敵だ。
「子どもエージェントによるミッション報告会」という名のアイディア発表会
ミッション報告会当日、私は奈良県の下北山村へ向かい現地から参加。
「遠く離れた村の課題」と言いつつも、「よし、行こう」と自分が決めさえしたならすぐに行ける場所なんだということを子どもたちに知って欲しかった。
千葉に6スクールあるナナカラから発表されるのは計13個のアイディア。
1時間の発表会の中で発表されたのは13アイディアだが、かなりの数のアイディアがエージェント会議の中で飛び出していた。
発表を心待ちにしてくれている子、発表が少し苦手な子、発表会の予定と合わなかった子、さまざま子どもがいる。
ワークシートを作って、発表する子ども以外のアイディアも下北山村に届けられるようにした。
報告会では、一つ一つのアイディアに村役場の方が「やってみたい」「これならすぐにできそう」「考えてくれてありがとう」など、あたたかく丁寧に感想を伝えてくださった。
村の紹介動画にあった村の子どもが川で魚を捕まえるシーンに大興奮する子どもたちの顔、村役場の方の感想を聞いた子どもたちの嬉しそうな顔、安堵した顔が画面越しに見えた。
アイディアを一部紹介
エージェント会議の中で出た意見も含め、ざっと上げただけで、小学2年生以上の子どもたちからこれだけのアイディアが出てきた。
アイディアが出てきたこと、まとまっていたことに驚いたのはもちろんなのだが、
感動したのは、子どものアイディアを聞いた自分の心がワクワクしていたことだ。
アイディアって、ワクワクすべきで、自由で、実現可能なものから考えるものじゃないんだったな、とあらためて思った。
アイディアって、ワクワクすべきで、自由で、実現可能なものから考えるものじゃないんだったな、とあらためて思った。
子どもの頃から日本の地域のことを自分ごととして考えようとか、
超長期的な関係人口を構築していこうとか、
もちろんそうなったら素敵だ。
けれど、もっと根本的なところで、
アイディアを出すって、もっと枠にとらわれずにワクワクすべきことなのじゃないかということを私自身が学んだ機会となった。
今回は都市部の子どもで考えてみたが、村の子どもと都市部の子どもをつないで考える機会もつくりたい。
きっと楽しい気付きを私たちがもらえるし、今度はファシリテーターとしてだけではなく、私もそこに混ざって、あーでもないこーでもないと話してみたい。
実現できないことは確かにたくさんあるけれど、ワクワクすることをまずは想像しなければ、実現することは絶対にない。
自分の考えたことが誰かのヒントになり、すぐにではないかもしれないけれど、誰かを助けるかもしれない。
現に今回ナナカラの子どもたちが考えてくれたアイディアは私の大きなヒントになった。
そして、今回は「困っている村を救おう」という言葉を使ったが、実は救われるのは自分の方が多い。これは、実際に行って実感してみて欲しい。
子どもたちにこのことがほんの少しでも伝わったら嬉しい。
何より、下北山村に行ってみたいと村に思いを馳せてくれたら嬉しい。
そしていつか実際に足を運ぶ子どもが一人でもいたら嬉しい。
この中の一つでも子どもたちに当てはまったら、それだけでこの企画は大成功だったと私は思うのだ。
今すぐに何かが変わるわけではないかもしれない。でも子どもたちの視野は少し広がったと信じたいし、何より大人である私の視野が広がったことは確かだ。
急遽思いついた企画を快くサポートしてくださった下北山村の村役場の皆さん、そしてナナカラの学童スタッフのみなさんに、心から感謝したい。
またやりたいな。
おわり。