<はじめての線スケッチ>透明水彩で楽しく塗ってみよう(1)
はじめに
線スケッチでは、ペンで線描した後に透明水彩絵の具で彩色します。
透明水彩絵の具で彩色というと、一般には線描のない水彩画を思い浮かべる方が多いでしょう。線スケッチの作品と一般の透明水彩画を比較してみると、その印象は大きく違います。それぞれの違いを表にまとめてみました。(下図)
<一般の水彩画>
一般の水彩画では、線は見当たらず、あっても鉛筆の下書きが彩色に隠れて見える程度です。
その彩色法は、水と紙面を利用しながら、たくみに筆をさばいて多彩な水彩表現をとります。
例えば、ウォッシュ、ウェット オン ウェット、ぼかし、にじみ、たらしこみ、ドライブラシなどです。
またパレット上で混色して独特な色を作ります。しかし、絵の具は混色すると色は暗くなるので、場合によりほぼ黒に近くなることもあります。
ですから混色を多用すると、もともと透明水彩絵の具の持つ「明るさ」という特徴を失うことになります。しかし、その暗さを利用すると、明るい部分が際立つ効果を生むことが出来ます。同時に多彩な筆さばきによる水彩表現と組み合わせると、水彩ならではの深みのある表現が生み出されます。
<線スケッチ>
一方、線スケッチでは、現場で感じた美しさ、驚き、感動、トキメキ感など心の動きをそのまま下書きなしで水彩紙に線描します。ですから、その線は、作者の気持ちの変化に応じて、太く、細く、速く、遅くと線自身に多くの表情を持つので、見る側にも作者の感情が伝わります。
彩色は、その生き生きとした線の表情がを活かすように、透明水彩で塗ります。
その際、一般の水彩画で用いる多彩な筆さばきによる水彩表現や、混色による色づくりの方法はとらず、一度塗っては乾かし、塗っては乾かす、重ね塗りの方法をとります。
そのため、見た目の印象は、浮世絵版画やイラストに近いと感じる方もいるかもしれません。分かりやすい例として、野菜、果物の静物を下に示します。
以上、線スケッチと一般水彩画との彩色の違いを紹介しました。
実際に透明水彩で塗るときの基本的な内容について受ける質問について次の項で説明をいたします。
1)透明水彩で塗るには画材は何を使えばよいのか
絵具:固形透明水彩絵具を使います。ウィンザー&ニュートン 18色セットなど。いろんなメーカーの製品があります。また、ばら売りもしています。描き続けるていくと、好きな絵の具が出てきますので、買いそろえていきます。
水彩筆:ホルベイン水彩筆リセーブル丸筆各種。本格的な水彩筆以外に、最近は安価で使い勝手のよいナイロン筆が売り出されています。例えばNEO-SABLE(Pentel)やネオセブロン(サクラクレパス)シリーズなど。
水彩紙:本格作品制作には、専用の水彩紙を用います。ホワイトワトソン、ウォーターフォード、ストらスモア、アルシュなど各種あります。絵の具の発色も異なりますので、自分に合う水彩紙を見つけてきます。
2)どこから塗り始めたらよいか。
決まったルールはありませんが、一般に面積の広い場所から塗ると作品全体の仕上がった彩色がイメージしやすくなります。
風景画を例にとると、空(雲)や道路(地面)、樹木や建物の壁などが相当します。
なお、どこから塗り始めるにせよ、最初は薄めに塗っておきます。その理由は、その部分だけ最終仕上げの濃さにすると、他の部分もそれに対応した濃さにしなければならず、自分が思っていたのと異なる濃さの場合に修正ができなくなるからです。
3)どのような色を塗るのか
線描さえしっかり描写されていれば、極端に言えば、何色を塗っても構いません。実物の色そっくりに塗ろうとしがちですが、むしろ自分が心地よいと思う好きな色を選ぶ方が作者自身の特徴が出やすくなります。
赤なら赤、緑なら緑でも無限の色調があります。絵の具通しを重ね塗りしていくうちに、自分が好きな色が分かってきます。それを覚えて次の絵にも使うようにすると、あなた自身の絵だ誰もがわかる作風ができあがってきます。
4)パレットで絵の具をどの程度溶かしたらよいか。
重ね塗りをする場合、濃度が薄い絵の具を回数多く塗るほど、透明感がまします。
ただ、あまり薄いと塗り重ねの時間がかかるので、私の場合、一色につき5回程度の重ね塗りにおさめています。具体的には次のようにしています。
「パレット上に多めに水をのせ、その上から筆に絵の具を付け溶かします。その際、ホーロー製やプラスティックのパレットの白が見えなくなる程度に溶かし込みます。」
水の量が少ないと、紙に浸透せず絵の具の粒が紙の上に固着している状態になって、透明水彩絵の具のみずみずしさ、透明感、明るさ、鮮やかさが失われます。
5)好みの色はどのように作るのか。混色してよいのか。
線スケッチの場合は、できるだけパレット上での混色はさけ、重ね塗りによって色を作り出します。
まず、ある色を紙の上で一回塗り、一旦乾かします。(ドライヤーを使用) 数回繰り返したのち、次にその上から、異なる色を塗ると、暗くならずに二つの色を混ぜることができます。
このようにすることで、絵全体が透明で明るく鮮やかな画面が出来上がります。
最後に
以上の比較的共通の質問に加え、より実践的な内容についての質問が続きます。例えば、筆の持ち方、動かし方。陰影による立体の表し方などです。別の記事でご紹介したいと思います。