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本って時々、飯テロを仕掛けてくる。

本の中に出てくる食べ物って、どうしてあんなに美味しそうなんだろう。

本を読んでいると時々無性にお腹がすくのは、言葉の飯テロのせいなんじゃないかと思っている。

ここ一か月、私は毎日マドレーヌを食べている。
貝殻の形の、ぽてっとしたの。
それをオーブントースターで3分温める。
チンの音とともに、ふんわりとバターの香りに包まれる瞬間は幸せそのもの。手に取ると、じんわり伝わる熱が愛おしい。

こんなふうにマドレーヌが好きになったのは、『キッズ・ライク・アス』(ヒラリー・レイル 著 林真紀 訳 サウザンブックス社)のせいだ。

『キッズ・ライク・アス』は、自閉症スペクトラム障害の少年、マーティンを主人公にした青春小説。彼には、現実のすべてを愛読書である『失われた時を求めて』(プルースト)の中の出来事と結び付けて考える癖がある。
『失われた時を求めて』では、主人公が紅茶とマドレーヌを食べて過去を思い出すところから物語が始まる。マドレーヌは、この作品の非常に重要なアイテムなのだ。
その作品をなぞるようにして生きているマーティンにとっても、マドレーヌはとても大切なもの。なので作中、いたるところにマドレーヌは現れる。

マーティンは、転校先の学校で一瞬にしてジルベルト(本当はアリス)という女の子に恋をする。彼が彼女を想うとき、いつも「マドレーヌ」が付いてくるのだ。
街のパン屋さん(マドレーヌを売っている)に一緒に行きたいと思う。
彼女がマドレーヌを食べているところを想像する。
実際にジルベルトとマドレーヌを食べるシーンが来る頃には、こちらがすっかりマドレーヌ中毒になりかけている。(しかもここで初めて二人は手をつなぐのだ。甘くて、不器用で、ちょっと切ない。もう、心にしっかり刻まれてしまうじゃないか)
物語のクライマックスでは、なんと1ページごとに4回以上「マドレーヌ」!!!! もはやマドレーヌの嵐!!!!!
しかもこの最後に出てくるマドレーヌは、焼き立てで、バターのいい香りがプンプンしているのだ!!! あああ、お腹がすくっ!!!

本を読んでいるとき、心は主人公と共にある。
そう、この本を読んでいるあいだ、私のそばには常に「マドレーヌ」がいるのだ!! ふんわり、しっとり、バターが香る、貝の形の!!!!!
これはもう、マドレーヌを好きになるに決まっているじゃないか!! 
飯テロと言わずしてなんといおうか、この状況を!!

今日もまた、マドレーヌを食べた。
マーティンの青春の味がする、マドレーヌをね。

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カタクリタマコ
最後までお付き合いいただきありがとうございます。 新しい本との出会いのきっかけになれればいいな。