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犬の逆くしゃみって病気なの?危ない病気との見分け方を獣医師が解説します(獣医師作成記事)

愛犬が急に鼻をブーブー鳴らして苦しそうにしている!!見た目は心配になってしまう「逆くしゃみ」ですが、実は逆くしゃみは病気とは言えません。その症状による悪影響もなければ、解決策もないとされているからです。ただし、非常に症状の似ている気管の疾患は時に命に関わります。その見分け方を説明します。

犬のくしゃみは病気?見分け方とは

しほ先生『今日は「愛犬が毎日、突然鼻を鳴らして苦しそうにしている」という飼い主様からのご相談です。とうの先生、よろしくお願いいたします。』

とうの先生『こんにちは。獣医師のとうのです。よろしくお願いいたします。』

相談者『はじめまして。よろしくお願いいたします。うちの愛犬は2歳のチワワです。
家で遊んでいるときなどに、突然鼻をブーブーと鳴らして苦しそうにすることがあります。数秒で止まることがほとんどですが、ひどい時は毎日起きるし、外で興奮しているとなかなか止まらないこともあります。以前かかりつけで診てもらった時は「逆くしゃみ」との診断で、「薬は無いから様子を見てください。」とのことでした。
でも、とても苦しそうに見えて心配で、今日相談にきました。』

とうの先生『なるほど。呼吸が苦しそうに見えるのは心配ですよね。ただ安心してもらいたいのは、「逆くしゃみは酸欠になるような状態ではない」という点です。実は獣医療の中では逆くしゃみを「病気」と言うべきかすら曖昧なのです。というのも、逆くしゃみはその症状による身体への悪影響がなく、治療法も無いためです。』

相談者『身体に悪影響はない、と聞くと少し安心します。苦しそうには見えますけど、酸欠にはならないんですね。』

とうの先生『そうですね。「呼吸が苦しい」という状態は、酸素が十分に入ってこなくて酸欠になることを主に言いますが、逆くしゃみでは酸欠になるほどの呼吸困難になることはないので、強く心配する必要がないことは心に留めておいてください。』

相談者『よかったです…。心配しすぎも良くないですよね。でも、逆くしゃみってなぜ起きてしまうのでしょうか?』

とうの先生『逆くしゃみは多くの犬に見られる現象ですが、残念ながら原因ははっきりとはわかっていません。と同時に、画期的な解決策もないのが現実です。逆くしゃみについて簡単にまとめておくので参考にして下さい。』

逆くしゃみとは

”咽頭部の刺激により誘発された吸気運動”と定義されています。
言い方を変えると、「何かしらの刺激により、息を吸う動作が発作のように繰り返される状態」です。

逆くしゃみの原因

その原因は実はわかっていません。空気中のチリやホコリへの反応、アレルギーなどが疑われています。まれに異物や感染症などの呼吸器疾患が原因となっていることもあります。

逆くしゃみの対処法

のどあたりを軽くマッサージする、胸や背中を撫でる、大きな音を立てて犬の注意をそらす、など。(確実な治療法は存在していません。)

とうの先生『何もしなくても止まることが多いので、正直、対処法は気休めのようなものです。原因がわからないですが、何かが刺激になっていると考えられているので、もし、香りの強いアロマを使っていたり、犬の近くに喫煙者がいたりする場合は、それらを避けてみるのもいいかもしれないですね。』

相談者『なるほど。これは一生続くのですか?』

とうの先生『はい、頻度は変わるかもしれないですが、生涯続くことが多いです。若い頃はひどかったけど、年齢を重ねるとともに頻度が減ってきた、という患者さんもいますよ。』

相談者『じゃあ、症状が出ても飼い主が落ち着いて、止まるのを待つしかないのですね。』

とうの先生『そうですね。呼吸ができなくて苦しんでいるわけではないので、慌てず落ち着いて、愛犬を落ち着かせるようにしてあげて下さい。ただし、「逆くしゃみ」と似た症状で命を落とす病気もあるので、今日はその話もさせて下さい。』

相談者『え!?命を落とす病気ですか?それは聞いておかないといけないですね!』

とうの先生『はい。逆くしゃみと似た症状で危険な病気として「気管虚脱」というものがあります。逆くしゃみに似た苦しそうな呼吸をするのですが、全く危険度が違うので要注意です。』

気管虚脱とは

気管虚脱とは、のどから胸にかけての気管の一部または広範囲が潰れて異常に狭くなってしまい、呼吸困難を引き起こす病気のこと。重症化すると低酸素状態となり、失神や命に関わることもあります。

気管虚脱の原因

原因はわかっていません。遺伝性、神経性、栄養性、炎症性などの説が考えられています。

気管虚脱になりやすい犬種

小型犬や短頭種(鼻の短い犬種)は起きやすいとされています。また、肥満の犬にも起きやすいことがわかっています。

気管虚脱の治療法

鎮咳薬、抗炎症薬、気管支拡張薬などを使います。重度の場合は酸素室での治療が必要になったり、人工呼吸が必要となることもあります。薬で良くならない場合は、外科手術も検討されます。

相談者『症状が似ているって、どうやって見分ければいいのですか?』

とうの先生『まずは、逆くしゃみか気管虚脱かわからない、”いつもと違う呼吸”や”咳”をしている場合は、その症状を動画に撮ってワンちゃんを連れてすぐに病院に行って下さい。相談者様の場合は、かかりつけで家での症状の動画を診てもらっているとのことですが、これが一番大切なんです。症状の見分け方は言葉にすると非常にわかりづらいですが、一応まとめておきますね。』

逆くしゃみと気管虚脱の見分け方

見分け方① 症状が出ている間に口が開いているか
→開いていたら気管虚脱、閉じていたら逆くしゃみの可能性が高いです。

見分け方② 音の種類
→「ガーガー」と言う、がちょうのような音なら気管虚脱の可能性が高いです。また、「ゼーゼー」という音や、咳の末に吐き気をもよおして透明な液などを吐き出すこともあります。逆くしゃみでは、鼻の奥が「ブーブー」「グーグー」といった音に聞こえます。

見分け方③ 舌の色
→気管虚脱がひどい場合は、舌の色が紫がかる「チアノーゼ」を起こすことがあります。これは呼吸困難が重度な状態ですから、一刻も早く病院に連れていかないといけません。逆くしゃみでは低酸素になることはないので、舌の色に大きな変化は見られません。(逆くしゃみでは症状が出ている間、口を閉じているのでわかりづらいですが、症状が治まった時は念のために舌がちゃんとピンク色をしているか確認して下さい。)

相談者『うちの子は逆くしゃみとわかっているので安心ですが、わからない場合はまず病院に行かないといけないですね。うちの子もいつもの逆くしゃみと違うと思ったら、すぐに病院に行くようにします!』

とうの先生『そうですね。心臓病のある子では気管虚脱も起こしやすいとされていますから、症状の動画が撮れなくても、念のために全身の検査を受けておくことをお勧めします。』

相談者『とても参考になりました。ありがとうございました!』

とうの先生『こちらこそ、ありがとうございました。』

終わりに 落ち着いて対処することが愛犬を守る

まとめ

  • 逆くしゃみで死ぬことはない。

  • 逆くしゃみが起きたら、犬を落ち着かせることを意識する。

  • 逆くしゃみかどうかがわからないときは動画を撮って動物病院で見てもらう。


とうの先生『まず一番最初に大切なのは「他の危ない呼吸器疾患ではない」ということを確かめることです。逆くしゃみだとわかってしまえば、あとは飼い主さんが落ち着いて対処するだけです。』

相談者『逆くしゃみは確かに苦しそうに見えますから、初めて見る飼い主さんは驚きますよね。命にも関わる気管虚脱との違いを教えてもらえたのは良かったです。ありがとうございました。』

とうの先生『参考になれば幸いです。ありがとうございました。』

犬は言葉で伝えられないので、飼い主さんが気にかけてあげる事が大切です。うちの愛犬は大丈夫かな?と思ったら、ぜひご相談ください。

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