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大物が中ボス、小物がラスボス。普通逆だろ!?「007カジノロワイヤル」(1967)

たしかに「007ゴールドフィンガー」は名作だが、それが生み出した罪の部分も見え隠れする。すなわち、活躍らしい活躍を主人公が何もしていないなくても、苦悩というものが凡そなくても、美女とイチャイチャし車を走らせて適当に銃を射ち適当に最後の謎を解決しておけば、スパイというのは務まるものだという一般への誤解。「寒い国から帰ったスパイ」やヒッチコック御大の「引き裂かれたカーテン」ほか真っ当なスパイものが大衆人気を得なくなってしまった直接的な原因のひとつだ。
リアリティが無くても、現代を舞台とした世界的な陰謀に挑む主人公という構図のジャンル映画というものは大衆受けするものだ、ということで。めぐりめぐってセガールやスタローン他「とりあえず敵をぶん殴れば万事解決」という80~90年代ハリウッド映画のテンプレが量産される遠因にもなっていることだろう(嘘
ゴールドフィンガーも相当酷かったが、コネリー時代のイオン・プロを相手に回した所謂1967年版「カジノ・ロワイヤル」も大抵。原作ぶん投げは当然のこと、敵も味方も仕事できそうにない連中が集って、スパイは名ばかり、馬鹿騒ぎを繰り広げるのだ。   

物語はバート・バカラックのおめでたいメロディから始まる。これが導入だけならよいのだが、本来であれば緊迫すべき窮地ですらまんべんなくオサレに流すので、こちらの観る気がだんだん萎えてくる副次的効果をもたらす。

引退しいまや貴族として優雅に暮らしている本家本元ジェームズ・ボンド卿(演:デヴィッド・ニーヴン)が、米英仏ソ各国情報部の依頼でカムバック。首領ドクター・ノア率いる犯罪組織スメルシは、各国首脳を替え玉ロボットとすり替えた上その国の情報部員をも次々と消していく。なんとかスメルシの世界征服の野望をくじかねば!というお話。
イギリス秘密情報部配下の全部員を一から鍛えなおし、男女の新ボンド(ピーター・セラーズ、ウルスラ・アンドレス、ジョアンナ・ペティット、ウディ・アレン)を任命。 うえ、ドクター・ノアの陰謀を暴け!というのが大まかなストーリーだ。

ひとまず、仕事や任務よりも恋や浮気や妄想にうつつを抜かしそうなボンドが全員集合した。
たとえば、ジミー・ボンド、その正体は(ネタバレしてしまえば)ドクター・ノア!はチビ、ハゲ、メガネのを演じる我らがウディ・アレン。自ら監督・演出されないウディ・アレンは只のコンプレックスのかたまり。自分より背の高い男を抹殺し、世界中の美女を独占しようという陰謀の目標の志の低さも、やんぬるかな。

緊張感もくそもないダルダルの雰囲気の本作において、唯一画面を引き締めるのが、スメルシの幹部ル・シフルを演じる、我らがオーソン・ウェルズ御大だ。幹部でありながら組織の金を着服した、というトホホな設定だが、貫禄は抜群。
同じ美女を侍らせるでも、ウディ・アレンの軽薄さとは大違い、大物の貫禄ぶり。強キャラすぎて、バカラックが薄っぺらく聞こえるほど。
カジノ・ロワイヤルでイカサマ・ギャンブルをして金を稼ぐ。そこで持ち前の超能力を披露するのだが、CGも特撮も使わず撮影トリックと目力だけで演出する力技。まさしくウェルズの独壇場。オンステージと言って良いだろう。
ともあれ、ボンド名義でリクルートされたバカラの名手イブリン(演:ピーター・セラーズ)と対決。

Le Chiffre: Bond? James Bond? The name is familiar.
Evelyn Tremble: I don't believe I've had the pleasure. Though, I'm flattered you've heard of me.
Le Chiffre: I have heard of you; but, not as an expert on baccarat.

と、シフルを動揺させる先制パンチには成功した。
ウェルズもセラーズも達者故、セリフの掛け合いは快調。しっかりポーカーしているという点で同時期の本家よりも優れている数少ない一面。それでも、シフルは只一人、ボンドはバックに両手に花以上の数のガールが控えているという、このバカラの構図にも拘らず、ボンドサイドが貧相に見えてしまうのは、製作者の狙い通りか、それとも。
三回目の正直でようやっと勝利を掴んだボンド。マジに変わるシフルの目が怖い。シフルの仕掛けた精神攻撃で、ダグパイプのマスゲームの真っ只中に放り込まれるボンド。精神の危機にもかかわらず「あなたはピーター・セラーズ?」「いや、ピーター・オトゥールだ!」とどこか呑気に耐え忍んだボンドに対して、スメルシの資格の手で額に鉛玉ぶち込まれてシフルは射殺される。大物ウェルズから小物アレンへと、最後に倒すべき?敵がシフトする瞬間である。逆だったらよかったのに…と切実に思う瞬間でもある。

さてクライマックスは、ドライブイン・シアターにかけられるAIP作品ばりにしょぼい合成と特撮で演出されたUFOがロンドン真っ只中に着地。ボンドになりたい「セラーズより一回り背が低いことを明確にする」ジミー・ボンドのgdgdだけどキビキビしたパントマイム、これがボンド卿にボロクソ言われまくるしょうもない寸劇もそこそこに、腑に落ちないままスメルシの本拠地で対決という段に。
カウボーイの乱入、ドラッグ吸ったジミー・ボンドの乱入、噴射される笑気ガスとシャボン玉、御年57歳のボンド卿は頑張って足を上げてキックで敵をのす。オリジナルボンドの大量来襲、gdgdなバカラックの音楽、ゴールドフィンガーな美少女、空挺落下するジェロニモ、馬鹿にされるフランス軍、殴り合い。撃ち合い。カウントダウン。
観てるほうが「勝手にしやがれ!」という気分になって、不条理ギャグ漫画よろしく収拾がつかなくなったところで、最後はアレンが飲み込んだ爆弾で全員仲良死だ。爆発オチなんてサイテー。勝手にしやがれ!

ともあれ、本作の豪華ケンラン、荒唐無稽、奇想天外、支離滅裂な雰囲気は「オースティン・パワーズ」に影響を与えたと聞いても、なるほど、うなづけるレベル。
近年の邦画を指して「予算の無駄遣い」という言葉もよく言うが、本作を「贅を尽くした映画」ととるか「無駄遣いの賜物」と捉えるかは…あなた次第だ。
なお、本作、ジェームズ・ボンド卿が乗車するボンド・カーはアストンマーチンではなく、貴族らしくベントレー・3リットルであります。

監督 ジョン・ヒューストンほか  原作 イアン・フレミング
撮影 ニコラス・ローグほか  音楽 バート・バカラック
出演 デビッド・ニーヴン、ピーター・セラーズ、アーシュラ・アンドレスほか



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ドント・ウォーリー
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