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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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#黒澤明

黒澤明監督「八月の狂詩曲」_ 長崎は土砂降り、おばあちゃんは崩れ、原風景は壊れる。

8月9日のナガサキを題材に 戦争を想う映画、まだ記憶が風化しきってなかった時代の語りを、本日は紹介。 ようやっと8月30日に再開される「麒麟がくる」。 ストーリー、キャスト、音楽、その全てに魅力が詰まっているが、 とりわけ目を惹くのが色とりどりの衣装だろう。 衣装デザイン:黒澤和子のセンスがいかんなく発揮されている。 「マスカレード・ホテル」もそうだけど、彼女が衣装を手だけた作品では、どんな邦画でも気品がワンランクアップする。コスチューム・プレイ になる。 その黒澤和子

黒澤明の「酔いどれ天使」「静かなる決闘」「赤ひげ」_不幸の撲滅に命を賭ける医師の一分。

黒澤明は、不思議なことに? 医者を主人公にした映画を三本撮っている。 「酔いどれ天使」「静かなる決闘」「赤ひげ」 の三本だ。 どの作品も、三船敏郎が主役として出演している。 当たり前だが、それぞれ設定は異なる。 共通するのは、私心を捨てて、目の前の患者を治し、それを通じて、この世に蔓延する疫病や不幸を克服しようとする、医師としての強い意志だ。 この時代だからこそ、この三作品は、観る価値がある。 それを、順を追って紹介したい。 1948年、黒澤明の第七作:酔いどれ天使。1

黒澤明「どですかでん」_ 明日も踏んだり蹴ったり。だけど。

クロサワほど名誉毀損が激しかった映画監督は、この日本にいなかったと思う。 それだけ、全日本に限らず全世界から「次は何を撮るのか?」を期待されていた、始終動向を監視されていた、スーパースターだったことを証明している。 有名な「トラ・トラ・トラ」監督降板騒動(1969年)後、最初の作品 「どですかでん」を観た後の世間の反応はどうだったか。 「赤ひげ」「用心棒」の痛快な面白さを当時の客は期待していただけに 「こんなものしか撮れないのか」 と失望の色は非常に大きかったことと思う。

ぬけだせない理由。それを黒澤明は「どん底」で70年前から見抜いていた。

直球のタイトルだ。 原作はマクシム・ゴーリキーの戯曲「どん底」、 この舞台を日本の江戸時代の貧しい長屋に置き換えて、黒澤明が映画化したものだ。 長屋と言っても、そこは低い湿地に建っている小部屋の多いスラム街だ。 物理的にも抜け出せないのは、この1カットから観て取れる。 彼らは、外界から見下され、隔離されている。 取り立てていうべき筋も、重要な謎もない。 住人たちの無気力な(そして何のシンパシーも抱かせない)日々が描かれる。 彼らは、どん底から這い上がろうとも思わない。 目先