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それは、新宿のどの辺りだったのか、まるで思い出せない。三丁目辺りから何処かへ折れると喧騒からも煌びやかなネオンからも離れた薄暗い所で、橋が掛かっていた。

住宅街でもないし、小さなオフィスが軒を連ねた場所なのか何とも形容し難い。

今し方、スマホの地図アプリで記憶を辿ってみたが、何度も通ったハズの新宿の街は、右も左もワカラナイ上に、距離感すら掴めない。

何かしら狐につままれた気になる。

そう、

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明日

『随分と疑い深いんですね』

『…』

『戦争中でもあるまいし』

『いつ起きるかなんて、誰もわからない。
起きる時は、前触れもなく訪れる。誰も、交通事故を起こそうとして運転しないだろ?起きる時には起きてしまう』

『決まった車があるなら、爆弾を仕掛けたり、故障する様にしますよ!』

『なるほど、そうだな』

『疑えばキリがありません。あらゆる可能性をゼロにするなんて事も出来ません。どんなに先手を

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明日まで

彼に友人は居なかった
彼は職場でも浮いていた
彼は目付きが悪かった
彼は愛想が無かった
彼はとても皮肉屋だった
彼は何事にも無関心だった
彼は挨拶もなく
目を合わせることをしない

出勤時間の30分前に必ず来て
就業のベルが鳴ると誰よりも早く帰った

休憩時間には姿を消した
体調不良で早退した従業員が
車の中で一人煙草を吸っているのを
見掛けたことがあるらしい

彼は飲めない酒を月に一度買い
橋か

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ドキ土器❤️

『どうしたの、寝れないの?』

『眠くなったら寝るよ。でも、もったいなくて…』

『もったいないって何が?』

『いや、こんな風に隣で寝顔が見れるのって幸せなんだなぁ〜と思って』

『私の顔好き?』

『うん。大好き』

『そっ!ならもったいなく思っちゃうね』

『うん』

僕にとっては晴天の霹靂だった。
恋人は、かれこれ10年はいない。
その間に白髪は増えるし、腹も出るし
恋愛なんて物には年々縁

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揺蕩う

【short story/揺蕩う】

「揺蕩う(たゆたう)」

物理的・心理的に定まらない
状態を意味する言葉。

水などに浮いているものや煙などが、
あちらこちらとさだめなくゆれ動く。
心が動揺して定まらなくなる。

_______________

『もう、どうしていいのか分かんない!
ねぇ、アタシどうすればよかった?
こんな風になるなんて思わなかったし
今から出来ることあるのかな?ねぇ聞いて

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多次元な彼女

多次元な彼女

【多次元な彼女】

こんな世界が現実的にあることを想像できるだろうか。

彼女が何者なのか未だに私にはワカラナイ。

最初の内は、随分と戸惑ったけれど、深く追求する事が怖くなってやめてしまった。

私が職場からアパートへ帰れば、彼女は笑顔で『おかえり』と出迎えてくれる。
しかし、朝目覚めると彼女は居らず、職場へ向かうと彼女はそこに居る。

私が彼女を見つめると少し怪訝な顔をして、まるで他人の様だ。

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堕天使《短編》

堕天使《短編》

冷たい雨が降っていた
君はずぶ濡れになりなっている
それでも泣いているのが分かる

俯き加減で、それでも
下から私を真っ直ぐに見ている。

君は、滴り落ちる雨に濡れた
脚をゆっくりと私に向い
両の手くびを合わせて
私の目の前に差し出して

『かたく縛って下さい』と言う。

私は、黙って彼女の肩を抱いて部屋に招き入れ
洗いたてのバスタオルを渡した。

なんの躊躇いもなく濡れた服を脱ぎ
背中を向けて濡

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