揺蕩う
【short story/揺蕩う】
「揺蕩う(たゆたう)」
物理的・心理的に定まらない
状態を意味する言葉。
水などに浮いているものや煙などが、
あちらこちらとさだめなくゆれ動く。
心が動揺して定まらなくなる。
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『もう、どうしていいのか分かんない!
ねぇ、アタシどうすればよかった?
こんな風になるなんて思わなかったし
今から出来ることあるのかな?ねぇ聞いてる?』
『そゆの揺蕩う…って言うんだ』
窓の向こうに、工場から立ち昇る煙が見える。煙は西の方角へ流れてる。
つまり、東から風が吹いてる。
でも、教室からは感じることが出来ない。
カーテンもとくに風に揺れてる訳でもない。
もう少し上、ここよりもう少し上空だと、きっとあの風を感じることが出来る。
でも、きっとさほど爽快な気持ちにもならないのだろう。
鳥さえ飛んでない。
きっと、煙臭くて肺がヤラレてしまうんだ。
空だっていつも灰色だ。
どのくらいもっと高い空なら心地良いんだろうか?
恋をしてる女性は、美しくなる…なんて
どこかで聞いたことがあるけれど、本当なんだろうか?
目の前のことしか考えられなくなって、四六時中彼氏の文句ばかり話している。
別れりゃイイのに、文句ばっかり言ってる癖に、振られる時は大騒ぎして、振る時にはアッケラカンと飲み干したペットボトルみたいに捨てる。
そこには、なんの躊躇もなくて、そゆのを何度も見せられる度に、女って生き物が怖くなってしまう。
なのに、どうしてだか僕の周りには女子ばかり群がって、こうして毎度の様に愚痴や不平不満を聞かされる。
『ねぇ!聞いてる?』
『聞いてるよ。毎回毎回、同じ話を何度も聞かされてるよ』
『毎回同じ話ってなによ!』
『三か月前も、半年前も、去年のクリスマス前も…今は三月だから、去年の三月頃から数えて…四人目?』
『何よそれ!喧嘩売ってんの?』
『いや、飽きないんだなぁ〜
違うかっ、懲りないんだなって』
『その度に、アタシとこうやって仲良く出来てオイシイ思いしてんだから、大人しく愚痴くらい聞きなさいよ』
女は怖い…
彼氏と喧嘩したって落ち込んで僕の所へ来て、仲直りできたって連絡が来れば何ヶ月も音沙汰なしで、彼氏に振られたって言っては、大量の駄菓子と家からくすねてきたビールやら缶酎ハイやらを何本かぶら下げて家に押し掛けて来る。
コチラの顔も見ないで好きなだけ愚痴って文句垂れて、三本くらい飲み干したら、急に静かになって僕を押し倒して来る。
僕はその御相伴に預かってSEXが出来る。
面倒な恋愛などしなくても、そんな風に僕を都合の良いお慰みにしてる女子が幾人かいる。
女って生態は、よくわからないが、観察してる分にはオモシロイ。それをネタにして、こうして小説をコツコツ書き溜めている。
ある娘は、僕のこの小説のネタを走り書きした大学ノートを見つけて念入りに読み耽って『小説新しいの書けた?』とか『私のことも書いて欲しい』などと言って、いちいち報告しに通って来る者もいる。
彼女たちは自由だ。
あの工場の煙みたいに風に吹かれるまま
純粋な空を穢しながら泣いたり笑ったり忙しい。
取り留めがなくて、掴みどころがなくて、
支離滅裂で、好奇心だけで生きていて、
好きも嫌いも日替わりで、泣いたり笑ったり、喚き散らして奇声を上げたり…
それもこれも話半分で聞いてりゃ、こうして物語りは増えてってくれる。
父も母も6歳の頃に死別して居ないから、彼女達も遠慮がない。僕のアパートは、さながら彼女達の秘密基地だ。
僕自身とても気楽だし、部屋が散らかれば掃除好きの誰かが綺麗サッパリにしてくれる。髪が伸びれば美容師になりたい誰かが練習代りに切りたいと言ってくる。
身寄りがない身の上も、彼女達は好き勝手に同情して好き勝手に世話をやいてくる。
僕は彼女達に何もかもを委ねて、好き放題される代わりに、この学生時代を謳歌させてもらっている。
short story【揺蕩う】
ソウルフラワーカムイ