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多次元な彼女

【多次元な彼女】

こんな世界が現実的にあることを想像できるだろうか。

彼女が何者なのか未だに私にはワカラナイ。

最初の内は、随分と戸惑ったけれど、深く追求する事が怖くなってやめてしまった。

私が職場からアパートへ帰れば、彼女は笑顔で『おかえり』と出迎えてくれる。
しかし、朝目覚めると彼女は居らず、職場へ向かうと彼女はそこに居る。

私が彼女を見つめると少し怪訝な顔をして、まるで他人の様だ。しかも、名札に書かれている名前は、私が知る彼女の名前とは別物だ。

『あの…』
私は勇気を出して彼女に話し掛けるも
『何か?』
…と、少し引き気味に答える。
『いえ、何でも…』

仕事帰り、彼女の後を追ってみた。
彼女は、私が乗る電車とは反対側のホームに立っており8:45分の電車に乗り込んだのを見送った。

溜め息をついて、私は私のアパートへ帰るホームに行き、9:00の電車に乗った。

そして、アパートへ帰るといつもの様に彼女は笑って『おかえり』と言ってくれる。

ビーフシチューのいい匂いがする。

『どぉ、美味しい?』
『もちろん!いつもありがと』

食事が終わってから彼女は風呂に入り、私はその後でいつも通り風呂に入る。
バスタオルで頭を拭きながらベッドの脇に座ると、いつもの様に彼女は私の腕を握って私を引き寄せて、キスをしてSEXをする。

でも、朝になるとやはり彼女の姿は無くて、台所には汚れた昨夜の一人分の食器だけが残っているし、彼女が使ったはずの食器は何処にも見当たらない。

ある時には、私が出勤した職場はいつもと違う。

だけど、ルーティンを熟すように、僕は何に迷うこともなく作業をする。
そして、僕はいつもとは違う電車に乗って郊外にある一軒家に帰ることもある。

何故だか、私は迷うこともなく
当たり前に、その家に帰るのだ。

家には、5歳の息子と3歳の娘が居て
『ねぇパパ』と懐いて来る。
『パパはお仕事で疲れてるんだから
あんまり困らせちゃダメよ!』と
彼女は、優しく子どもを諭してくれる。

彼女は、子どもを寝かせてから冷蔵庫からビールをふたつ取り出して、
『今日もお疲れ様』と乾杯する。
彼女はいつも美しくて優しい。

だが、次の日目が覚めると、私はまた見ず知らずの狭いアパートで一人目が覚める。

私は、中古の軽に乗って打ち合わせに向かう。応接室で待っていると彼女がお茶を持って来てくれた。

でも、私は既に分かりつつあったから
軽く会釈をして微笑み返した。
見ず知らずの貴女は今晩家に帰れば私の傍に居てくれる。
だから、ここでははじめて出会ったかのように振る舞っていればいい。

私の身に何が起きているのか見当もつかない。どれが現実でどれが非現実なのかもワカラナイ。だけど、家に帰れば必ず幸せな時間があらゆるカタチで現れてくれる。

こんな世界に生きている人間が居るなんて誰にも信じてもらえないだろうし、私自身何が何だかさっぱり理解出来ない。

あなたがもしも私の事を知っているなら教えて欲しい。

私はあなたとどんな世界でどんな風に出会って、どんな話をしたのだろうか?

short story《多次元な彼女》
作/ソウルフラワーカムイ




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