父親から明かされる、奇妙な砥上家のルーツ。
長編ファンタジー小説 獣の時代〈第1部〉第1章 5.砥上家⑤
砥上遥希には家族がいなかった。
もちろん生まれたからには両親はいたしおそらく兄もいた。
「おそらくって」
自分の兄弟の有無について副詞を使うのは変じゃないかと砥上はちょっとだけ呆れた。
「記憶が曖昧なんだよ。いたような気がするが、確証がない。きっと幼い頃に別れたんだと思う」
その幼い頃のある日、ひとりの男が訪ねてきた。台所の柱の影から玄関で対応する父親の背中を見ていた彼は母親に呼ばれ、買い物に行くと勝