想い出もいっしょに味わっている
前回の「ブルーベリーで鯛を釣った話」に同じくNoteクリエイターの敬子さんが「わらしべ長者を思い出しました」とコメントしてくれました。
そう言われて、私もあらためて「わらしべ長者」の話をユーチューブで観てみました。
確かに持っていたものが次々といろいろなモノと交換して変わっていく様子は「わらしべ長者」のようです。
さて、あのNoteを書いた後日談があります。
それは「カナダの女子は黄緑色の浴衣がお好き?」で書いたシャーの話です。
うちで浴衣でお茶を楽しんで行ったシャーですが、その後、彼女とご主人は「バンクーバー島の北西の小さな海辺の村、Winter harbour で1週間過ごす」と言って出かけていきました。
Winter harbour はかなりの僻地。
住民は20人程度の場所で、アクセスも悪く、訪れるのは手つかずの自然好きや釣り客ぐらいじゃないでしょうか。
一般的な観光客はまず行かないでしょう。
シャー夫妻は知合いがいるらしく、釣りに行くそうだけど。
そして1週間後、シャーからメッセージが届きました。
Winter harbour から本土の自宅に帰る途中にうちにイクラを届けに寄ってくれるというのです。そう言えば、社交辞令ぐらいで聞き流していたけど
「Wakeiは日本人だから、サーモンの卵食べる?
欲しいなら帰りに寄って持って来てきてあげようか?」
と言っていたのです。
本当に持って来てくれるらしい。
約束の時間前に玄関のベルが鳴ってドアを開けると満面の笑みの長身のシャーが立っていました。
「はい、これ。サーモンの卵ね。」
と言って大きめのジップロックの袋を2つを差し出してきました。
この袋を見た瞬間、思わず
「Wow! Too much! (多すぎ!)」と言ってしまいました。
シャーが
「えっ、多すぎって、いらないの?」
とちょっと驚いたように聞くので
「多すぎて困ってるんじゃなくて、あんまりたくさんだからビックリしてる。こんなにもらって本当にいいの?」
と答えました。
これって一体何匹分なの?っていう量ですよ。
イクラは日本人同様にイクラを食べるファーストネーションの知合いが身近にいたら、1つか2つ買って分けてもらうぐらいです。
毎年食べるわけでもありません。
シャー夫婦は典型的なカナディアンで、サーモンは好きだけど、イクラの調理の仕方も知らなければ食べる習慣もありません。
彼らにとってはイクラは美味しいサーモンを釣ったときに捨てる内臓のようなものです。
シャーが捨てずにわざわざ持って来てくれたのは本当に有難い。
「いらない人から欲しい人へ」捨てる前にこんな風に上手く循環したらいいよね。
あらかじめ用意していた新鮮なブルーベリーもこれだけのイクラには少なく感じますが、シャーに渡しました。
シャーもうちでいっしょに浴衣を着てやったお茶が楽しかったようで、そのお礼のつもりもあったようですが、捨てるはずのイクラが思いがけずにブルーベリーに変わって、喜んで持って帰っていってくれました。
私もささやかながら、お返しができて嬉しい。
今回は本当にタイミングがいいブルーベリーです。ブルーベリーさまさま。
「人生で最大量のイクラを手に入れることができた。そしてそのお礼にブルーベリーを渡した」
これが私のブルーベリー版「わらしべ長者」物語のオチでしょうか。
あんなにあったブルーベリーも明日は食べ切ってしまいそうです。
イクラは生もので不安もあるので、もらった当日に偶然出会った友人にだけお裾分けして、休みの日に半日かかりでほぐして、醤油漬けにしました。
この夏の終わりの1週間は、毎日のようにブルーベリーやイクラを家族みんなで賑やかに美味しく食べています。
こうしてカナダの豊かな自然の恵みを季節の移り変わりを感じながら、家族の楽しい記憶として刻むことができるのは、とってもラッキーです。
何年か、何十年か経っても繰り返し、
「あの時は毎日のようにブルーベリーもイクラもみんなでいっぱい食べれてよかったねぇ。楽しかったねぇ。」
「そういえばそんなこともあったなぁ。」
「イクラ、ほぐすの時間かかったけど新鮮だとほぐしやすいね。」
「まさか、シャーがあんなにたくさんイクラを持って来てくれるとはね。
あの時は本当に驚いた。」
「カナダは日本より果物も安かったし、海でもいろいろ獲れたし、楽しめたなぁ」
「あの年のカナダでの食生活は最高だったんじゃない。」
「それもお父さんのおかげだね」
なんてみんなで何度も何度も味わうように思い出せたらより嬉しいなぁ、と思いながら、今日も残りわずかのブルーベリーとイクラを食べています。