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詩/消えた林檎

「消えた林檎」
詩 若葉坂道

テーブルの上には醤油と飲み残しのワインボトル
透明から見える濃い色の表面だけを残し
寝不足の視線が時間を止めた

穏やかな風のない樹の下で
林檎を握ったアイザックが指を指した

それぞれの水面の中心からマントルを罫線で結ぶ
高さが異なる容積の音階
水平を保つ音のない水面
アナログ時計の長針と短針の先に水面が回る

2音を奏でる水面の針が地球を回った
海に浮かぶ一艘の舟はその軌跡を追いかけた

水平線を眺めながら地球は丸いと思った

水平 水平

水平に見えているだけなんだと思った

水平に見えている線

水平に見えている線

そう呼べばいいが長くて使いづらい言葉だ

航海をやめてあくびをした

穏やかな風のない樹の下で
アイザックが残りのワインを嗜(たしな)みながら
"earth line"と書いた林檎を僕に手渡した

左手の林檎を右手に持ち替え
左手で眠気を覚ました

僕は文字の隣りをかじり
インクの切れたボールペンを握って
"地球線"と書いた

テーブルの上には醤油と空のワインボトル
インクの切れたボールペン

林檎はどこにもなかった


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