セクハラが与えた影響

本当は落ち着いた学生生活を送る予定だった

私は口が悪い。
多分、家族全員口が悪い。
特に父親に関しては、普通のサラリーマンだが人相まで悪い。
でも、全員地域の活動や役員なんかには積極的に参加する善良な市民である。
その口の悪さには自覚があって、普段は言葉遣いを気をつけているが、たまにボロがでる。

だから、中学生になったら大人の階段登るわけだし、もう少し落ち着いて生活しようと自分を律していたらこれだ。

石村のおかげで覚醒した。
配慮などもってやる必要などはない。

授業中に私の反撃にあうとは思わなかったようだが、石村という男は懲りないどころか、女という生き物に対して認知も歪んでいたようだ。
その日の部活中はほぼずっと私を恫喝していた。

叱ると怒るの違い

残念ながら、私には「父」という人相まで悪い人間が生まれてからずっと近くにいて、幼少の頃から怒られ慣れているおかげで、怒鳴られたくらいでは単にうるさいと思うくらいで、恐怖心が煽られないくらいには鍛えられていた。

(どんな教育だ)

だから、もし、本当に大人しくて、反抗一つもできない生徒がターゲットになったらと考えると、芳しくない結果が思い浮かぶが、現在のところこいつのターゲットはこの私。

大声にも父のそれと石村のそれの違いはしっかりと感じられて、その「怒鳴る」という行為より、そこに含まれる「意図」に唾棄したい嫌悪感が走った。
父親のそれには私にむける「心配」や「愛情」を意図として感じられたし、本人もハッキリした人間だったので辻褄はあっていたように感じる。行為だけみると現代なら虐待になるのかも知れないが、思春期のエネルギッシュなバカ娘とこれ程盛大に喧嘩してくれる親もなかなかいないのではないかと今なら思う。

父は自分で大声あげておいて反省もしていた。
そして父からは「お前の怒ったとき顔は鬼より怖えーよ」と言われる始末だ。どちらかというと怖がられていたのは私の方だったようだ。

出来損ないの支配欲

一方で石村のそれには「支配欲」の3文字しか浮かばなかった。こいつの怒鳴り散らかす行為には脅す以外のメッセージを感じなかったからだ。
「俺に服従しろ」というメッセージを含んだ恫喝。
それは私を力で支配したいというわかりやすい思惑が明け透けに伝わる。
女は怖がらせれば言うこと聞くと思っている典型的なカスだったんだろうし、大人になっても女と真剣に向き合ったことが無かったのだろうし、異性関係の中で自身を成長させる体験にも乏しかったのだろう。そうして、こういう人間に仕上がったというわけだ。

だから石村が何を言っているのかなど関心がなかったので話全く聞いていなかった。

しかし次第に部活が苦痛になってきた。
私がここにいるメリットは無いと思えた。まだ、入部して間もなく先輩や同級生ともそこまで関係は深まってなく、チームワークもこれからという状況で、一体何を頼りに苦行を続けていけばいいのかと考え始めた。
もともとソフトボールをやっていた同級生たちはバスケ部やバレーボール部なんかに散っていた。
そんな環境なので、部活をやめるかやめないかで迷い始めた。

歪んだ欲と所有感

さっきから、頭上より飛んで来るうるさい石村の怒声を浴びながら、「こいつ、ずっと下痢漏らしてるのと変わらんな」と内心思うのだった。

自分の欲情や感情の処理も整理もできなくて、自分より弱い立場の相手を便器に漏らし続けているだけの穴の締まりの無い男に映るからだ。

「情けねえな。けつ拭けよ」と。

そんなことやらをぼんやり考えていた。




ふいに、石村の指が私の髪をすり抜けた。

「お前、髪きれいだな」



突然のことに固まった。

この情景は今でもたまにフラッシュバックする。スローモーションで。
気持ち悪すぎて言葉で表現できないほどの怒りと、当時の私の屈辱感を今でも適切に言葉で表現できないでいる。
私は何かを侵害された。それは確か。

土だらけのソフトボールを触ったあと、洗いもしない汚い手で手櫛をされ、二度と触るなと言ったことが守られなかったどころか、今度は競技には全く関係のない石村自身の「触りたくなった」という、以前よりもはっきりした欲や、まるで自分の好きに出来るオモチャを触るような、こいつが私にむけた「所有感」までこの行動一つで感じ取れた。

瞬間沸点に達して、石村を無言で一瞥したあとそのままその場を放棄した。
頭がぐちゃぐちゃで言葉にならなかったので無言で立ち去った。
とても、その場に居られなかった。
残ったら何をされるかわかったもんじゃない。

そして、石村が大声をあげながら追いかけてきた。
無視してずんずん歩いた。
しつこい石村に怒りと恐怖を感じ「やらなければやられる」と危機感を抱いて、ちょうど部室前にきたときにほぼ無意識で暴言を吐いた。
今度は私の怒号が轟く。

「お前触んな言ったよな?嘘つきが!チャラにしてやるから一発蹴らせろ」

と言うと同時に石村のすねを思いっきり蹴り跳ばした。
痛がる石村をよに足早に帰路についた。

セカンドレイプ

どんな気持ちで居ていいのかもわからないくらい前例に無いほど心が掻き乱されていたが、取り乱したら石村の思う壷だと思い、とにかく気丈に振る舞って自室にこもった。
そこに石村は居ないのに。
その晩、母親に石村から体を触られることが嫌だから部活を辞めたいと伝えた。
腐ったミカン時代を経ていたものの、まだまだ生徒に信頼の無い時代だったのがいけなかったのかもしれない。

母親からは共感を得られると思っていたが「先生がそんなことする?」と。取り合ってもらえなかった。
おまけに、海外単身赴任中の父からも母バイアスの話が伝えられたために私がさも被害意識が強い子だと烙印まで丁寧に押され「お前は何をやっても続かないな」とまで言われるはめになる。

今でいうセカンドレイプというやつを頼りにしていた家族から受けることとなった。こうなると家にいても孤独だ。

後に当時のことは、母親もどう対処していいかわからなかったこと、こんな大事なことと思いもよらず考えなく発言してしまったと、誤りはしないものの説明を受けた。自分が親の立場でも現代のように前例が少ない時代だったし対処に悩むだろうなと理解はした。
こうして、私の精神衛生が悪化しただけでなく、一人の教師の愚行によって家族関係にまで悪影響が及んだ。

ダメージと反応

ここから私は怖いものが無くなった。
それまで自分はまだまだ守られるべく子供だという自覚があったが、大人に対する期待と共にをことごとく砕け散った。

おまけにまさかの、大人によって花の中学生活のスタートは灰色に塗りたくられるはめになったのだし、それを反省も改善もしないので偉そうにしているのだから、急に大人に対しての尊敬の念も、自分より大きな存在であるという感覚も崩壊した。
大人もとるに足らないと本気で思ったし、身体がデカイだけて木偶の坊だと、途端に舐めた態度をとり始める。

威厳は無くなった。

担任の男性教師にも平気で1m以内に近づくなよと暴言を吐いたし、母親に対しても悪態をつき始めた。
人が変わるなんて些細なきっかけだと思う。
そして、悪態に見えて一連の行動はこれ以上侵害されないためにとった私の必死の自己防衛の手段であったと後に知る。

急に放り出されて、自分は自分で守るしか無くなったが方法を扱うのに手馴れておらずまだ手探りだった。

無敵状態になった私は怒りのままに石村に仕返しを考え始めた。
なるべく、痛手を負うやり方がいいと。





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