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読書感想『臨床のスピカ』前川 ほまれ

スピカは、寄り添うことができる

動物介在療法に携わるDI犬のスピカと、そのハンドラーの凪川遥…遥がハンドラーとして生きていくまでの物語。
遥は看護師として就職をした時津風病院で、同期の武智詩織と仲良くなる。
かつて犬に助けられたことがある詩織は、動物介在療法導入を推し進めるべく、愛犬と共に自らハンドラーになろうとしていた。
ところが愛犬には介助犬の特性がなく、詩織にも病魔が襲う。
そんな彼らのそばにいた遥は、その意思を継ぐ形でハンドラーへの道を歩み始めることとなる。
スピカと出会い、犬と人との関係を通じ、人と人との心地よい距離と自分自身のありようを遥は見つめなおす―――


過去と現在が交錯しながら、看護師でもある遥とDI犬スピカと共に患者に接し治療へ挑むさまが描かれる。
横紋筋肉腫を患った5歳児、強迫性障害を抱える中学生、産後うつの患者や家族たちと向き合いながら、遥自身も自分を見つめなおしていく、そんな一冊である。
アニマルセラピーとは少し違う、もっと治療に深く関わってくるDI犬の存在を詳しく知るきっかけにもなる一冊であり、同時に描かれる治療風景はとてもリアルだ。
こういうタイプの物語って、どうしても犬がそばにいてくれたから万事良くなる…というか必要以上に解決してしまう傾向にあるのだが、そんな甘いことは描かれていない。
スピカが瞳を見つめ、寄り添ってくれることで確かに患者たちは少しの勇気や一歩踏み出すきっかけをつかむ。
でもそれはスピカが何かをした、というよりもスピカという存在がただそばに寄り添ってくれたことで患者自身が動き出せた、のである。
スピカは、とても優しく患者を見つめ、そばに寄り添い、体に触れさせる。
そしてハンドラーである遥は、色々な葛藤を抱えながらスピカを見つめ、そして己の心も見つめるのである。
過剰な感動や、大げさな軌跡は起きず、ただそこに寄り添ってくれるスピカがいて、スピカのもたらした小さなぬくもりが関わった人々に確かな力を分けてくれるのだ。
大げさには広げず、ただ静かに展開していく様子がむしろ好ましく、すべての場面でそこにいるであろうスピカの存在が柔らかく温かい一冊だった。
僕も犬が大好きで、犬のもたらしてくれるぬくもりの効力をよく知っているから余計に、しんどい時にそばにただ犬がいてくれるだけがどれほど心強いかがよくわかっている。
とてもシビアで奇跡が起きるわけじゃない、でもとても心に響く一冊でした。

こんな本もオススメ


■馳 星周 『少年と犬 』

■千早 茜『雷と走る』

■W.ブルース キャメロン『野良犬トビーの愛すべき転生』

子供のころから常に犬と暮らしてきたので…ほんと、犬がそばにいてるだけでどれだけ救われるかはよく知ってる。

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