読書感想『夜明けのはざま』町田そのこ

地方都市にある家族葬専門の葬儀屋「芥子実庵」
そこで葬祭ディレクターとして働く佐久間真奈は、恋人の純也からプロポーズをされたが「仕事を変える」事が絶対条件になっていた。
自分の仕事に誇りを持っていた真奈はその言葉にショックを受けながら、純也への想いがあり揺れ動く。
そんななか親友の自死の知らせとその葬儀の依頼が入り…。

葬儀社「芥子実庵」を舞台に佐久間を軸にしながら色んな登場人物が、死に向き合い…そして無意識に漂う偏見をまざまざと見せつけられる連作短編のようでありひとつの長編でもある一冊だ。
人が死ぬ、という避けられない事象のためにある葬儀屋という仕事なのに、忌み嫌われ、若い女がわざわざつく仕事ではないと侮られる。
どんなに仕事に真摯に向き合っていても、結婚をするなら女が家庭に入り男を支えるべきだと悪意もなく言われてしまう。
一人で生計を立てて暮らしているのに、親や姉からは結婚することが既定路線であるように語られそうでないと半人前であるように扱われる。。
仲のいい友人が結婚するために旦那親族から軽く扱われるのを目の当たりにし、彼女の意思がどこにも反映されないことを見せつけられる。
女だから、女なのに…自分の力で稼ぎ生きているのに、何故かそれが男と同じようには受け取ってもらえない現実がずっと、ずっと漂い続けている一冊にめちゃくちゃ共感できるのは僕が女だからだろうか?
凄いと思ったのは、ここに出てくる男たちの大半が悪人なわけではない点だ。
特に純也に関していうなればむしろ理解のあるほう、なことである。
理解がある、その時点で女というものを男の庇護下に置くものという認識を無意識に持っていて、それが言動の端々にこびりついているのだ。
きっと彼はその一言一言に恋人が違和感を持つことを想像すらできないことが終始透けて見えて、その空気感にちょっと共感が止まらないというか、よくこれを文章に落とし込んだな…と感心すらしてしまった。
女の意思を尊重する、そこにあるどうしようもないほど無意識な上から目線が見事過ぎてちょっと共感が止まらなかった。
人の死に対する思いや、生きていることの難しさを描き切った見事な一冊だと思う。
本の中で結婚や夫婦の幸せについて考えてるシーンがある。
幸せとは何なのかを考えたら、必要なのは相手を幸せにしたいと思うことだというニュアンスの文章が出てくる。
あらゆる人間関係においてこれ以上に必要なことはないんじゃないんだろうかってくらい個人的には刺さってしまった。
読む人によってはもしかしたら何一つ理解できないのかもしれないとも思う。
でも僕は、この本を読んで共感できる人たちに周りにいて欲しいと思った。そんな一冊です。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?