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読書感想『夜しか泳げなかった』古矢永 塔子

あれは、僕の…『僕たちだけの物語』だ―――

中高生に人気のベストセラー小説『君と、青宙遊泳』…それを読んだ高校教師の卯之原朔也は愕然とする。
それは、かつて卯之原が封印したある物語と酷似していたからだ。
作者は覆面作家・ルリツグミ…自分の物語を盗まれたと思った卯之原はルリツグミの正体を探り始める。
すると、ルリツグミ本人だという妻鳥透羽が卯之原の学校に転校してきて…


中高生に大人気の『君と、青宙遊泳』は、余命宣告を受けた女の子と、彼女と出会った男の子の物語なのだが、今作はこのよくある余命モノへの痛烈な皮肉と、人が死ぬということへのもっと切実な真実が詰まった一冊だ。
妻鳥の書いた小説を読んだ卯之原はその内容に、これは自分の物語だ、と愕然とする。
それは,所謂盗作…などではなく、その内容が卯之原とは亡き高校の同級生・日邑千陽と過ごした7年前の夏の話だからである。
『君と、青宙遊泳』は卯之原と日邑の現実をベースに描かれているのである。
卯之原が知ったときには、彼の過去は脚色され勝手に消費されていたのである。
うわ…グロ…それはえげつないわ…と、えらい切り口で攻めてきたな…と思いながら読んでたんですが、ぶっちゃけ僕も世に溢れる余命モノに若干辟易してるので、これくらいリアルを描いてくれた方がいい。
卯之原の消したい過去でもある、7年前に亡くなった日邑との本当にあった話と、妻鳥が『君と、青宙遊泳』を書くに至った経緯が明かされながら、彼らは共通の目的を見つける。
と、いうのも余命宣告を受けてすでに亡くなっている日邑だが、その死因は病死ではなく、事故死なのである。
それも駅のホームに飛び降りた、という…自殺だと思われる死に方をしているのである。
一体日邑は何を考えて亡くなったのか…二人はそれを探し始めるのだ。
美しく感動的に描かれた『君と、青宙遊泳」…実際はそんな美しいものではなかった、余命宣告を受けた少女と彼女の周りにいた人々の真実が描かれていくのだが、あぁもうめちゃくちゃ胸に迫ってくる。
世の中にあふれるような感動的な物語が展開されるわけもなく、当事者たちはもっと切実に悩み、苦しみ、疲弊していっているのである。
日邑のことを描きながらも、妻鳥は日邑にはネット上でしか会ったことはなく、その日邑像が現実の彼女とズレているのも卯之原を苛立たせていく。
真実が見えるごとに妻鳥も傷つきながら、それでも彼らは日邑の真実だと思われるものへたどり着くのである。
人が亡くなる…それも、まだ未成年の子が、その命の期限を告げられたとき、そこに前向きで感動的な物語など生まれない…そこにあるのは絶望と恐怖だ。
それは本人だけじゃなく、本人の周りを巻き込んで、大きな苦しみを産むのである。
その事実に真っ向から対峙しながら、それでもそこに生まれた、誰かへの想いや後悔を救う一冊である。
余命モノってあんまり好きじゃないというか…もうほんと最近、軽率に浪費されてる感がある中で、もっと深く真剣にその事実と向き合った一冊だと思う。
凄く胸のひりひりする一冊でした。
いやぁ、良かった。
単純に浪費される「余命」とは全然違うので、興味ある方は是非。

こんな本もオススメ


・住野 よる「君の膵臓をたべたい」

・小川 糸 「ライオンのおやつ」

・寺地 はるな「カレーの時間」

最近の日本映画の異常な余命率にはマジうんざりしてます…簡単に人を殺して感動してんじゃないよ、本当に…。

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