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読書感想『全員犯人、だけど被害者、しかも探偵』下村 敦史
社長を殺した犯人だけ、生きて帰してやる―――
自社製品の欠陥を隠し、死亡事故を起こしてしまった『SHIKAGAWA社』
社長・志賀川恭一は苛烈なバッシングとプライベートの暴露記事、そして度重なる脅迫に耐えかねて自殺をしてしまった。
彼の死後、ジャーナリスト、彼の妻、部下、内部告発をした社員、被害者遺族代表、運転手、自殺を発見した清掃員の七人が何者かに呼び出された。
彼らの連れていかれた廃墟にはSHIKAGAWA社の社長室が完全再現されており、7人はそこに監禁されてしまう。
閉じ込めれた彼らにスピーカーから指示が出された。
『48時間以内に志賀川社長を殺した犯人を特定しろ。犯人だけ、生きて帰してやる』
閉じ込められた彼らは、生きて帰るために自らが志賀川を殺した真犯人になろうとするが…
クローズドサークルな今作は、なかなかぶっ飛んだ設定。
自殺のあった部屋が完全再現された廃墟に閉じ込められた7人が、それぞれに自分が真犯人になるべく自白を繰り広げ、お互いにその推理の矛盾をついてその自白をひっくり返し、自らが犯人になろうとするのである。
どうやって社長を自殺に見せかけて殺したか、どのようにこの密室を作り出したかを披露し、他の人間にそれを覆されながら物語が進むのである。
全員が監禁された被害者であり、自称社長を殺した犯人であり、犯人の自供をひっくり返す探偵なのである。
いやー相変わらずぶっ飛んだ設定で…
『同姓同名』の全員同じ名前の時も思いましたが、こう、一つの事象に複数の要素を持たせた推理ものを書くのが非常にうまい作家さんだな、と改めて思いました。
面白いのは、彼らが今を生き残るために自ら殺人犯になろうとすることである。
自殺したことになっている志賀川が本当はどうやって亡くなったかは問題ではなく、7人のだれの言い分が一番犯人ぽいのかが争点なのである。
自分が犯人になるべく披露された推理の穴を見つけ、その穴をふさいでより矛盾を失くして自分がその推理を乗っ取るという…前代未聞の推理ショーが繰り広げられる。
そして同時にこの監禁騒動を起こした犯人の目的を探るのである。
なかなか不思議な設定なうえに、読んでいると随所に違和感があり色々引っかかるのも事実なのだが、最後まで読むとそれすらも狙って書かれていたことが発覚し思わず舌を巻いた。
そもそも犯人は何がしたいのかがずっと謎なのだが、そこにはきちんと目的があり、読み終わった後にもう一回振り返ってそれぞれの言動を確認したくなる一冊である。
うん、よく出来てるなぁ…すっかり下村作品独自の世界が出来上がってますよね。
毎度毎度独自の仕掛けがあるので新刊が出るたびに楽しみな作家さんです。
面白かった!
こんな本もオススメ
・下村敦史『同姓同名』
・夕木春央『方舟』
・東野 圭吾『私が彼を殺した』
物語を構成するキャラクターが全員一癖あるのはやっぱり面白いですよね~