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読書感想『透明な螺旋』東野圭吾

その悪い癖は、いつになったら治るんだ?

南房総沖で、男の銃殺体が見つかった。
行方不明届が出されていたため、死体の身元はすぐに判明したが、何故か行方不明届を出した同居人の女性が姿をくらませた。
捜査にあたった草薙俊平と内海薫は、その過程で湯川学の名前を見つける。
事件の停滞がみられる中、草薙は横須賀の両親のもとにいるという湯川のもとへ向かうが―――
ガリレオシリーズ第十弾。

もちろん文芸書の時にしっかり数回読んでるのだが、文庫になったので喜びいさんで再読である。
とりあえず文庫化おめでとうありがとう、巻末収録の『重命る』も嬉しい一冊である。
(東野圭吾先生の名前を出すたびに言っているが、僕は東野圭吾狂信者で重度のオタクのため色々注意してお読みください)
いつの間にやらシリーズも冊数を重ね、10冊目である。
『探偵ガリレオ』で30代半ばで再会した草薙刑事と物理学者・湯川学もいつの間にやら50代…いろんな事件を解決しながら、お互いに葛藤を抱え、それでも続いた20年である。
今作は、…そうだなぁ、ガリレオシリーズではあるのだけれども、その謎解きは別に科学的ではないし、湯川学でないと解決できなかったのか?という観点からは若干疑問ではある一冊ではあると思っている。
そういう意味ではこれが3冊目くらいに来たら違和感があったのかもなぁ…と思わないこともないのだが、如何せんこれは10冊目であり、作中でしっかり20年もの歳月が流れて、の今作なのでシリーズを楽しんできた人には感慨深い一冊になっている。
ガリレオシリーズがめちゃくちゃ好きなのだが、その好きな理由に、この20年の歳月とその間に草薙刑事と湯川先生の立ち位置の変化や、考え方の溝、それでも変わらない関係性など、物語の人たちではありながらも安易にコンビであり続けたわけではない部分にリアリティがあるところがある。
ぶっちゃけ『容疑者X』のあと、あーこれは続きもうないだろうな、と諦めていた時期がある。
最初のころ、ただ刑事と科学者の異色コンビが大学時代の友達関係そのままでちょっと楽しみながら事件に当たる、そんな雰囲気だったシリーズが『容疑者X』で、一気に刑事として事件に向かうとはどういうことなのか、友人が犯罪者になった事に気づいたときにどうすればいいのか、など、それまで漂っていたただただオカルト捜査を楽しんでる空気感に、事件がもたらす現実という冷や水を浴びせられた感じがあったからである。
そして事実、そのあとの二人は一時距離が出来ており、内海薫という第三者が介入したことによりまた連絡を取り始めるが、明らかに草薙刑事には一般人である湯川学を巻き込むことをやめようとしていた様子が伺えたし、湯川学も自分が関わることの是非を考えてたのは明白である。
それでも緩やかに事件に関わり、その後の事件が与える考え方の変化などが彼らをコンビでいさせ続けた10冊だったなぁと思うのだ。
結構シリーズ物ってね…あれ?前回あんなことあったのにその感じでいけちゃうんだ?って違和感があることもあるのに対し、『ガリレオ』はそこ安易に書かなかったな、と思うのである。
大学時代の友人という関係性ではありつつも、刑事と一般人であることが溝にもなりお互いを疎んだ時期もあり、それでも湯川先生にかかわるところで事件があるから仕方なくまた一緒にコンビやって…で20年、色々あるけど折り合いつけて今まで続いてきた感じがあるから、今作を『ガリレオ』シリーズで描かれた意味があるな、と感じる一冊なのだ。
歳月の流れでキャラクターとして徐々に変貌していった湯川学が、自分のことを明かせるまでに成長したんだなと切実に思ったり。
東野作品を読んできた人ならこの話を読むと結び付けてしまう本があり、それがさらに湯川学を補完するという仕掛けも明かされた一冊なのだが、ぶっちゃけここまで湯川先生というキャラクターが成熟しないと、その仕掛けは明かせなかったんではないかとも感じている。
いや、あれがね…最初からいつかこうやって明かそうと意図されていたのか、当時の東野圭吾先生がある意味『ガリレオ』を構築するうえでは余談だと判断したエピソードをああいうカタチで昇華されたのかは僕には判断着かないのだが、シリーズが成熟したからこそその余談さえ肉付けとして飲み込めるようになったんだと思うと、いやほんとしみじみ、あぁシリーズが、というか湯川学というキャラクターが成熟したんだなぁと感動してしまうのである。
そして今回文庫に追加された『重命る』をよむと、20年の紆余曲折を経ながらも草薙刑事と物理学者・湯川学のコンビが『探偵ガリレオ』『予知夢』の頃の、不可思議な事件に異色コンビが挑むという原点に戻ってきた印象を強く受ける。
ああぁぁぁぁこれはまた、単なる事件に挑む短編描かれる!?と期待せずにはいられない…いや、なんか謎のキャンペーンやってるから絶対何かしら新作は出てくるんだろうけど…。
『ガリレオ』は長編がいつも秀逸で考えさせられるシリーズではあるのだが、何気に初期の刑事と科学者が科学的な謎に挑むあの感じがやっぱりこのシリーズの原点だよなぁと思っているので、あの空気感が戻ってきた『重命る』が巻末に追加されたことがめちゃくちゃ嬉しい一冊だった。
いやほんと,『ガリレオ』好きな人はシリーズ刊行順にじっくり読んで、湯川先生の変化を楽しんで欲しい。
マジたまらない一冊でした。

こんな本もオススメ

・東野 圭吾 『むかし僕が死んだ家』

・東野 圭吾 『探偵ガリレオ』

・東野圭吾『ガリレオの苦悩』

いやほんと、東野圭吾作品ってシリーズもの何気にとっても少ないんだが、代表シリーズである加賀シリーズ/ガリレオシリーズはやっぱり全部秀逸でたまらん。好きすぎる。

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