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感想&雑感『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~ 欧米のモノマネをしようとして全く違うものになってしまい続けた日本の人事制度』著:海老原嗣生

 どうも!おはようございますからこんばんわ!まで。

 今回は雇用のカリスマで重鎮、多くの人事関係者が師匠として仰ぐ海老原嗣生さんの著書『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~ 欧米のモノマネをしようとして全く違うものになってしまい続けた日本の人事制度』(以下、本書)からいくつかピックアップして私なりに書いてみたいと思います。私の理解の力量では力不足なのは百も承知ですが、どうかお許しください。

1-1.ジョブ型雇用論争の源流にある職能等級と職務等級の違い

 日本ではある一定のサイクルで欧米の主流であるジョブ型雇用を日本に組み込んでみては?という論争があります。そのジョブ型雇用論争の源流にある職能等級と職務等級の違いを理解していない方が多い傾向にあるようです。

 日本が主流である職能等級の基本は人に等級が付くというイメージです。その等級には定員がないので、例えば同じ等級2級でも平社員の人もいれば主任の人もいます。つまり、誰しもが上位の等級やポストを目指すことができる一方で、総人件費が右肩上がりになってしまいそれをコントロールするのが難しいという短所があります。

 アメリカ等で主流の職務等級の基本はポストに等級が付くイメージです。それぞれの等級には定員があるため、上位のポストに就くためには紐づけられた等級をこなすことができるだけの力量を持つだけでなく、ポストに空きが出ることを待たなければなりません。この形が一般的にジョブ型雇用と呼ばれる形で、エリートとノンエリートが二分化される形となっています。

1-2.JD(ジョブディスクリプション)神話

 ジョブ型雇用のもう一つの要素として、JD(ジョブディスクリプション)挙げられ、日本におけるジョブ型雇用論争でもテーマに挙がります。JD(職務記述書)を簡単に言うと、仕事をタスク別に細分化してそれを定義づけることを言います。一見すると、それはその人がその組織内でこなす仕事を明確して役割を与えるように見えますが、皆さんが労働契約を交わすときに契約書や前段で貰う労働条件通知書にこんな記載を見たことはありますか?

~に関する業務

 この書き方だと、幅広い仕事に従事すると読み取れますよね?。本書では社長という仕事を例にしていますが、JDでタスクを明確化できるわけがありません。変化が激しい世の中では尚更です。雇用ジャーナリストのデヴィッド・クリールマン氏は「1980年代にJDにその役割を終えた」,Pwcの牛島仁氏は「個別タスクは日々変わるからそれを(JDに)書くのは危険」,日本板硝子の中島豊氏は「現在のそれ(JD)は、職務範囲や責任など、上位概念を書く」とそれぞれ指摘しています。だからこそ、欧米型(ジョブ型)の基本はポストを限定して採用することにあります。

1-3.新卒一括採用と解雇

 日本型雇用の特徴の1つに新卒一括採用というのがあり、これが日本におけるジョブ型雇用の対で制度疲労を起こしている温床の1つとして槍玉に挙がります。だけど、槍玉に挙がるとはいえなかなかに廃れません。その背景には欠員の確保が容易という点にあります。

 本書ではこのような事例を示しています。群馬の拠点で課長の欠員が出た時、岡崎の拠点の課長を群馬の拠点の課長として埋めることで充足できますが、そうすると今度は岡崎の拠点の課長が欠員となります。それを郡山の拠点の主任を課長に昇進させることで充足させます。このように、横(部署や拠点)に動かしたり縦(昇進)に動かしたりといった玉突き連鎖でポジションを変えることで、自然と末端のポジションが空席になりそれを新卒で補充することで充足すればOKという手軽さが背景にあります。

 一方で、この手軽さは解雇の難しさにもつながっています。元々、日本は解雇が難しいと言われますが欧米と解雇に関わる法律と比較するとほんの少ししか条文規定がなくザル法であります。しかし、日本はポストを限定としていないため当該ポジションが水に合わないなら他のポジションは?という感じに配置換えをする等を施さないとそれは解雇権の濫用に繋がります。だから、日本において解雇権を行使する上では合理的な理由が求められるため、日本では解雇が難しいと言われます。人事権と解雇権はトレードオフの関係性にあるゆえんはこういうところにあります。

2-1.時短VS日本型雇用

 近年日本では長時間労働の是正のために働き方改革が叫ばれています。日本では誰もが上を目指すことができる体系なため、正社員というカテゴリーにいるすべての人がポジション問わず長時間労働の傾向にある一方、欧米型はエリートとノンエリートに2分化され、ノンエリートは給与の上昇が極小なため、WLBを選択しやすいという傾向にあります。

 本書の中で、著者の海老原氏はキャリアの前半は日本型後半は欧米型が落としどころではないかと指摘しているように、若者の失業・転職が少ない日本型をキャリアの前半に、ミドル層に優しい欧米型をキャリアの後半に据える方がWLBと仕事を両立する上では最適なのかもしれません。それはすなわち、日本型における階段を上り続ける労働社会から離脱する権利を含ませることです。

3-1.職業能力とキャリアの形

 本書の中で、広くどこでも活かすことが能力をパソコンで言うOS,その業界でしか活かすことができない能力をアプリケーションに例えて3つのタイプに仕事を分けることができると述べています。1つはアプリケーションの比率が大きいtypeA,もう1つはOSの比率が大きいtypeB,そしてもう1つはOSとアプリケーションが半分ずつの比率にあるtypeCです。

 typeAは業界内における知識や経験の積み重ねが大事で金融機関やメーカー、エンジニアや研究者といったところが主な領域となります。typeBは業界内の知識やノウハウの会得には長い時間がかからず早期の段階から頭角を現すことができる特徴があり、人材系ビジネスや外資生保,不動産営業や百貨店(外商)といったところが主な領域となります。typeCはアプリケーションとOSが半々なのが特徴で販売会社やコンビニのSV,ルートセールスや窓口販売といったところが主な領域となります。

 typeの違いはそれぞれの特徴にあった人事施策でないと効果を発揮しえないため、typeAの会社がtypeBの会社の人事施策を真似してもどん詰まりしてしまうゆえんはそこにあると海老原氏は指摘しています。

4.締めに

 私の理解や文章力では力不足な側面はありますが、これだけの発見や学びに収まらないほどの学びを得ることができました。やっぱり海老原さんはすごいなと思います。そして、労働界隈で登場する流行り言葉や横文字は一度立ち止まって考えなければいけないことをこの本が教えてくれていると私は思いました。

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