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ヤクルトの村上くん

打って走るやつ

会社の同期に野球少年がいる。少年という年齢でもないのだか、太陽が似合い、大声を張り上げてグラウンドを走っていそうな出で立ちだ。
大学までスポーツ推薦で進み、野球に限らずスポーツが大好き(熱意より敬意を感じる)。自分がプレーしていた関係で知り合いにオリンピック選手や日本代表選手がいる。
横浜ベイスターズの牧秀悟選手は彼の飲み友達だそうだ。

ところで、私はといえば野球のルールすら知らない。
打って、走るやつでしょ?と言えば、そうそう!あってる!と
笑顔で相槌を打ってくれる同期は育ちがいいとつくづく感じる。

先週の土曜日、実家に帰っていたタイミングでWBCの日本対チェコの試合が放映されていた。

そうだ、乃木坂の久保ちゃんが始球式投げてたっけ。すごいなー。

自宅にはテレビがないので、せっかくだからと試合を見ることにした。牧選手も出場しているし。一方的にご縁があると思い込んで、テレビの前に座り込んだ。

4番、二十三歳

間違っていたら指摘してほしいのだが、4番にあてられるのはそのチームのエースだと認識している。

2回裏、日本の4番は村上宗隆選手。
露ほども野球に興味のない私は、村上選手が最年少で令和初の三冠王だということなど知らない。
でも「村神様」というワードは見たことがある。

村上選手の名前の横には、(23)と書かれている。
話題になっているヌートバー選手が二十五歳で同い年。
牧くん(馴れ馴れしいかな)は私の一個下で二十四歳。
その、さらに年下。

二十三歳で、私でさえ知る大谷選手やダルビッシュ選手を差し置いて4番に選ばれるのはどんな気分だろう。

WBCでの村上選手は調子が悪いらしい。
一緒に試合を観ていた父は「だめだよ~調子悪い村上ずっと使ってたら。牧にでも変えなきゃ」と愚痴をこぼす。

おっ。牧くんは調子がいいのか。知り合いの知り合いである私も鼻が高い。(そして、牧くんは8回裏にホームランを打った。)

でも、年下の男の子が自信なさげにベースに立つ姿は、愛らしかった。応援したくなった。

同い年の女子アイドルを応援していた気持ちを思い出す。
年の変わらない女の子が、承認欲求に飲み込まれないよう自己を探しながら
誰かを励まそうと答えのない世界で奮闘する姿は庇護欲をかきたてられた。
そういえば名前を書いたタオルをもって応援する文化なんか、アイドルも野球も一緒じゃないか。(こんなことを言って怒られないかびくびくしている。)

世界を相手に一番を目指すWBCという大会では批判されるのだろうが、
神様に祀り上げらていない一歩ずつ強くなる村上くんを見たい気持ちがある。


ムラカミ見守るムラカミ

村上選手が19歳の2019年、同姓の小説家・村上春樹さんが村上選手のことを綴っている。

村上さんは神宮球場で芝生に寝そべり、ビールを飲みながらヤクルト対広島を観戦していたときに小説を書こうと思い立った。それは1回裏、ヤクルトの先頭打者のデイブ・ヒルトンが左中間に二塁打を打った瞬間のことだったという。

自分のことは飄々と語る村上さんだが、このはじまりは随分とロマンチックだ。ヤクルトスワローズとの運命を信じているのだろうか。

やっぱりそこで神宮球場に「ムラカミ」の名が響いたらうれしいものだろう。村上さんも宗隆くんに活躍してほしいと切に願った。
「村上、がんばれ!」という声援に「はい、ありがとうございます。がんばります!」と答えそうになる世界的作家の姿はお茶目でほほえましい。
村上さんってお茶目な普通のおじさんだ。

今日は村上くんは5番。がんばれ。
ビール片手に応援するよ。


[余談]
今回は村上春樹さんの文体を拝借した。(こういうところなんか特に。)
いつもは敬体を使っている。何も考えずに書くと常体の文章になるので、それを頭から見直す作業でわざわざ敬体に直している。

なぜ敬体にこだわったか問われれば、高尚さを出したいから。実際に女子校出身のお嬢様の文章と感じさせているそうなので、試みは成功した。
ただ、息苦しさはないけど、ちょっと手間がかかる。

村上さんの文章は好きだ。
つまらないと豪語した(ごめんなさい)『羊をめぐる冒険』も最後まで読み終えたら面白かった。(読んでないけど)『カラマーゾフの兄弟』と同じで、上巻をクリアすれば、あとはもう寝食を惜しまず読めた。

女性の一人称が「私」に限られてしまうのが厄介なんだけど、ここを解決できれば常体がいいな。
芝生に寝転がったときの土のにおいがしみついた言葉も、そろそろ自己として認めたい。

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𝗠𝗶𝗻𝗮𝗰𝗼/南野美奈子
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