藤原和博「処生術」(1997年・新潮社)の書評
Google時代の先輩・美笛さんから「7日間ブックカバーチャレンジ」を頂戴したので書評を書いてみます。好きな本がありすぎて7冊に限定するのが難しいですが、選書基準を「世の中的にそこまで知られていない本」「読むのにそこまで時間がかからない本(1時間程)」としました。
1冊目はリクルートの大先輩、藤原和博さんの本。
私が人生で最も影響を受けた本の1つ。
働き方や生き方を見直そう、学ぼうとしている人にオススメです。
藤原和博さんってどんな人?
著者の藤原和博さんはリクルート出身で、2003年に東京都で民間人初の公立中学校の校長先生に就任された御方です。
「処世術」ではなく「処生術」と名付けられた本書は、藤原さん自身が30代の頃に生き方を変えた体験談が描かれています。
藤原さんの著書にはこの本の他にも、「坂の上の坂」や「35歳の教科書」といった名作もあります。「10年後、君に仕事はあるのか?」「必ず食える1%の人になる方法」などの本は比較的最近の本です。
ただ、100冊近くある藤原さんの著書のなかで最もオススメなのが今回ご紹介する「処生術」です。藤原さんの処女作であり、ブッチギリダントツで一番よい(和田調べ)。
「やめること」を決める
藤原さんは、リクルートでバリバリ実績をあげて順調に出世し、30歳でエース社員だけを集めた肝いり事業の営業部長を務めていました。
その時に「メニエル」という病気にかかりました。
この時藤原さんは「我にかえって」仕事や生活、これまでやこれからの人生について考えました。本書のハイライトは、この時の描写が、正直に、丁寧に、リアルに語られているところです。
5章構成からなる本書の第3章「サラリーマン忍法帳」には、病気にかかってから藤原さんがやめたことが具体的に12個かかれています。深酒や宴会のハシゴ、ゴルフ、結婚式や葬式に出ること。テレビや新聞。それぞれの辞めた理由やその他にやめたことは本書に譲りますが、「これだけやめて初めて、自分の時間ができる」の一文が印象的です。
いまの仕事や生活が忙しいと感じている人は、まずは「やめること」「やめられそうなこと」をリストアップするのがオススメです。本当にやめるかどうかはおいておいて、藤原さんに倣って、無理やり12個あげてみる。実際にやめてみたら、自分の時間ができるはずです。
「働き方改革」をバブル絶頂期から取り組んでいた先駆者
この本は藤原さん自身の「働き方改革」(2018年頃に流行った言葉ですがもはや懐かしい)の体験談です。
驚愕したポイントは、この本が1997年に書かれていること。藤原さんのご年齢から推察すると、実際の改革は1985~1990年頃に行われています。
1985~1990年の日本経済は、平成バブルの絶頂期。1989年は日経平均株価が歴代最高の3万8915円を記録し、三菱地所がニューヨークのロックフェラー・センターを買収した年です。
日本経済全体がイケイケで絶頂のときで、藤原さんご自身も若くして出世街道まっしぐら。
そんなタイミングにおける、時代に180度逆行した働き方改革。
「あいつは出世競争から脱落した」
「あいつは病気をして終わったやつだ」
「逃げたな」
本書にかかれていない私の想像ですが、当時藤原さんの周囲には、こういった心無い雰囲気が蔓延っていたのかもしれません。
若くしてリクルートの営業部長ですから、羨望や妬みの対象となっていたことは想像に難くありません。ご本人にとっても、突如として現れた得体の知れない症状に、時には絶望を感じながら向き合ったのかもしれません。
そんなことに思いを馳せながらページをめくると、本書は涙なしには読めない、革命の物語に姿を変えます。
with COVID時代、世界全体があらたな生き方、処生術を探しています。
カンタンには見つからないかもしれませんが、当時の藤原さんの環境と比較をすると、いまの方が見つけやすそうですよね。
「革命はひとりからはじまる」「人間は奇跡を起こすために生まれてきた」
書評の結びとして、本書のなかで、私が好きな言葉を2つ紹介します。
1.革命はひとりから始まる
本書を最初に読んだ大学生の頃(2005年頃。はやいもので、15年前・・)は「革命だなんて大げさな」と思っていましたが、社会人になり下積みをし、世の中や歴史を学び、35歳になったいま、心に響く言葉になりました。
前述の通り藤原さんは、「ひとりから」革命を始めました。私も起業家として、大切にし続けたい言葉です。
2.人間は奇跡を起こすために生まれてきたのだから
この言葉は、とある章の結びに突如として現れます。
文脈はこの言葉を結論にするための論理展開ではありませんし、改行や太字などの強調もされていません。
私はうまくいかない時にはこの言葉を思い出し、反芻しています。将来、子どもたちが「なぜ生まれて来たの?」という問いをしてきたら、返答にはこの言葉を拝借しようと思っています。
世の中には成功体験やヒーローインタビューが多い中、これほどまでに「どんぞこのタイミング」が赤裸々に語られている書籍はなかなかありません。
「なんだかヘンだぞ」と感じることがあれば、その違和感を大切にしつつ、この本を読んでみてください。
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