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読書感想「高慢と偏見」ジェイン・オースティン

 モームの十大小説で未読だった作品の一角「高慢と偏見」を読了しましたので簡単に感想を述べます。
 まず基本的に私は恋愛小説が苦手です。本作およびジェイン・オースティンを今まで読まなかったのもそのためです。それをなぜ今更読んだかというと、現在はまっているヴァージニア・ウルフの随筆「自分ひとりの部屋」を最近読んでジェイン・オースティンについて詳しく触れられており強い興味を持ったからです。ウルフが指摘したのは、女性が小説を書くなどもってのほかと言われた一九世紀に、家事の合間に隠してコツコツ書き続けたジェイン・オースティンの姿でした。そのような過酷な状況の中で書かれたにも関わらず、モームが十大小説として取り上げ、今でも読まれ続ける小説とはどのようなものなのか知りたかったからです(先日読んだオースターの小説でも最後に残った数冊の本の一冊がジェイン・オースティンでした)。
 
 読み終えて、よくこのような長編小説をウルフの言ったような状況で書けたなあというのが最初の感想です。
 内容的にはエリザベスとダーシーの古典的な恋愛小説なのですが、「高慢と偏見」というタイトル通り、高慢な人たちと偏見に満ちた人たちがたくさん出てきます。主人公もそうで、ダーシーは高慢、エリザベスは偏見に分類されるでしょう。ダーシーは地位が高く教養もあって、悪気はないのですが、低俗で下品かつ金銭的なことばかりに目が行く周囲の人々を無意識のうちに見下しているところがあります(誠実な人なのですがそこが誤解されやすい原因)。また、エリザベスは極めて聡明で弁も立つ自立した女性であるにも関わらず人の話を鵜呑みにし外見で判断してしまう軽率さがあり偏見に陥ります。しかもなかなか自説を曲げようとしない頑固者です。最終的に自らの過ちに気づき反省して誤解は解けるものの、エリザベスとダーシーの恋路を邪魔していたのは、結局その高慢と偏見だったことが次第に分かります。ただ彼らの高慢と偏見は、最終的に解消されます。

 一方、徹頭徹尾高慢な人、偏見に満ちた人も多くいるなかで、高慢でもなく、偏見もない、作者が一番常識的な人物として描いたのは長女のジェインではないでしょうか。私が作中人物で一番好きなのは長女のジェインです。美しくどこまでも中庸で慈愛に満ちた美しい女性として描かれています。無教養で低俗なエリザベスの母親、同じく低俗で時代遅れのコリンズ牧師、比較的常識人ですがやはり偏見からは抜け出せない父親のベネット氏、頭は良いが思い込みの激しいヒロイン、エリザベス、思慮が浅く短絡的(というか馬鹿)な末娘リディア、高慢の代表みたいなレイディー・キャサリン、ミス・ビングリー、堕落と放蕩の象徴ウィッカムなど様々な人物はせわしなく動くのに、ジェインは余り動かずいつも穏やかで優しく佇んでいるイメージ。私にはジェインを物差しにして周囲の人間の高慢や偏見、馬鹿馬鹿しさや愚かさを浮きだたせているような気がしました。そのあたりの人物の描き方が上手いなと思いました。個人的には、ウィッカムとリディアのバカップルのなれの果てが知りたい気はしますが(笑)。

 一方で、やはり恋愛小説が苦手な私には退屈な部分も多かったです。リディアとウィッカムの駆け落ちする事件が発生するまでは、「渡る世間は鬼ばかり」みたいにいつも同じ場所で井戸端会議をしていることが多く、この辺りの世界の狭さに、ウルフが指摘したジェイン・オースティンの置かれた時代的背景を感じました。もちろん、「渡る世間は鬼ばかり」は大ヒットドラマであり、ああいうドラマが好きな人は大勢いるでしょう。「高慢と偏見」が今も読まれ愛されているのも同じです。こればかりは好みなので仕方ないですね。地の文よりも会話が多いのも個人的には好みではありません。歴史に残る作品だと思いますが、ジェイン・オースティンの別の作品を読もうとは思いませんでした。 
 
 最後にエリザベスとダーシーの会話を紹介します。機知に富むエリザベスがダーシーの恋心のいきさつを的確に指摘する部分ですが、ダーシーさん、これは完全に奥さんの尻に敷かれますな(笑)。


あなただけに認められたくて、絶えず顔色を窺って物を云ったり、表情を取繕ったり、考え方を合せたりする女達に嫌気がさしていたのね。そこへそんな女達に全然似ていない私が現れたものだから、あなたはおやっと思って興味を持たれた。もしあなたがあまり気立てのよいお方でなかったら、そんな私のことなど当然毛嫌いなさったでしょうね。でもあなたは努めて本心を偽ろうとなさったけれど、持前の高潔で公正な心は偽れなかった。それで心の底では、あなたに取入って歓心を買おうとする人達を軽蔑しきっていたのです。さあ――私、あなたが説明なさる手間を省いてあげましたわ。

中公文庫 「高慢と偏見」ジェイン・オースティン 大島一彦訳 P645

 以上感想文でした。
 古典的な明るい恋愛小説が好きな方はぜひ一読あれ。

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