![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51722782/rectangle_large_type_2_14525811adfcc7be26f5c5868097e6d3.jpg?width=1200)
Photo by
ima_doco
湖畔に住む人
亀色をした五十里湖は私を一瞬で引き摺り込む
私は湖畔の蕎麦屋から亀色の溜まりを見下ろしては
あそこに落ちたら言葉も叡智も
インクが滲み落ちた白紙の本に
なりさがるであろうと
私の拙い空論は圧迫されてつつあった
それ故私は湖畔の蕎麦屋で
鴨蕎麦を啜っては
胸中の踊り子をゆったりと舞踊させた
蕎麦屋のざらついた砂壁のおかげで
私と水面との関わりは
あくまで客人と住人になりかわる
私は五十里湖を塀の外から鑑賞している
自然を前にして一体にならず
自然を前にして臆病に篭る
しかしながら湯気のたつ鴨蕎麦の
頬が消失する様な旨味は
私が一歩踏み出したら溺れ落ちるという
亀色の威圧的な存在を大きく感じ
蕎麦と一緒に啜り込むから
えも言えぬ一杯として幸表れるのであろうと感じた
私は鴨の脂が浮いた丼物に
先住民の生きた音のない声が
出し汁の奥から聴こえてくるのを耳にしたから
自然界の寛大な脅威に
背を向けて生きていることが
無知恥と思い立っては
じっくりと出し汁を飲み干した
重い石頭じゃ
より深くと沈みもがくだけだから
五十里湖の無垢故の強さを
糧として
ごちそうさまと小銭を掴んでは
亭主に頭を下げ降ろした