グレーオーシャンの診察室
潮風にあたり
無理矢理に幻想の扉を潜る
絶え間ない波の強弱に
私の鼓動のチューニングを合わせた
曇天のせいで
やるせない日常の屋根のままだが
都会から離れたこの場所は
あくまでも私の味方だった
得意のご都合主義
魚達は過酷な水中で必死に生を全うする
私よりも生死を強く噛み締め
ひたすらに向き合っている
人間の感情とは
時として低次元で
波にのまれやすい
一長一短の感情は
余計に私の脚を浜辺の砂に埋もれさせた
私達は出来ることが多い
その反面
心をヤスリでギシギシと削る瞬間がある
波の連鎖の優しさで
できれば私の擦り切らした部分を
水流でまんまるに形成された石ころの様に
整えてほしいものだ
私ひとりでは
抱えきれない事案やしがない感情を
たまごっちでウンチを流すが如く
私のモヤモヤの化身の様な大きなウンチを波で
いっきに流し去ってほしい
脚元が砂浜からコンクリートに変わったとき
今よりもスッキリと軽くなっていることを願う
暗くなる前に幻想の扉を逆戻りしなければ
私はこのままここに居続ける勇気もない
それが勇気だとは思わないのだが
船には乗らず 引き返した私の背中に
海の音が精神科医の様な問診をはじめる
私は録音した海の声を
処方箋として持ち帰った
繰り返す明日が迫ることが
恐怖に感じない様に
逃げ場所があるということは
間違いなく素敵なことだ
創作意欲なんてものは
きっとそんな場所から生み出されるのだろう