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星を落としたアールグレイ。

あなたが紅茶を淹れたから、
真夜中のリビングに幸せの香りが訪れる。

アールグレイの持つ気品と静穏さが、
我が家の偏屈なリビングの格をガククっと上げる。


そういう時間が、シャワーでは落とし切れなかった
1日の消しカスの様に散らばった濁りを、
ひとつにまとめて片付けてくれる。


私はあなたの話しを聞く。

今日という1日の篤行と罪。
そして、なんとでもない小さな事象。

あなたの声が木目の様に年輪を帯びては、
私に日々の生活に欠かせない大切なことを教えてくれる。


この時間はゆっくりと流れる。

私はそれに頬をパッと染める。


あなたの素直な気持ちだけが年輪のひとつひとつに色をつけていく。


あなたは一通り喋り終わると、
必ず私の話しを聞きたがる。

幸福に思うこと、窮屈に感じること、
次の週末に行ってみたいレストラン。


私はこの空間の中では、プライベートシアターで
ニューシネマパラダイスを鑑賞しているかの様な
ゆとりある心情と、表情を手に入れる。



アールグレイが冷めないうちに、わたしとあなたは
心に学をつけていく。
大層に言っても、互いの胸の内を交換するだけだが。

教科書を開かなくても、私とあなたの思考が
ミルフィーユの様に積み上がっていくから。

それだけでいいんだ。

それが大事なことなんだ。

だんまりこくった、一方通行では、
ミルフィーユの塔は建設されない。


観たことのない映画だらけの視界では、
私とあなたの世界は狭いまま。

大事なことは鑑賞すること、
そしてその内容について意見や想いを交わすこと。


アールグレイのおかわりも悪くないだろう。


2人はこうして、生きていく。

穏やかな時間で想いを吐き出しながら。
アールグレイと一緒に、互いの胸の内を一口ずつ飲み込みながら。



心にゆとりがなくならない様に、
真夜中に紅茶を淹れながら。



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