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2024年映画ベストテン

2025年が始まって早2ヶ月。
キネマ旬報ベストテンや毎日映画コンクールの大賞作品が発表されるなど、映画業界も昨年度の振り返りを行っているこの時期。
もうすぐ日本アカデミー賞も発表されるということで、今更ながら、2024年に観た映画の中で特に素晴らしかった作品を紹介しようと思います。
いつもは邦画と洋画に分けていたのですが、今年は合わせたランキングになっています。

では、早速2024年映画ベストテンを発表します!


第1位『枯れ葉』


2024年ベストワンは、フィンランドの名匠アキ・カウリスマキの最新作。
北欧の街ヘルシンキで出会った男女が、お互いの名前も知らないまま惹かれ合い、すれ違いを重ねながらも関係性を深めていく物語。
観終わった後、これが幸せだよなー、という感慨深い思いで胸がいっぱいになった。
不安定な仕事に勤めながら、人生における枯れ葉である中年を迎えた主人公二人が、様々な困難に遭いながらも、無表情を崩すことなく、確かな愛を築き上げていく様子にグッときた。
劇中、ロシアによるウクライナへの侵攻を伝えるニュースが常に流れていて、日常が脅かされる不安を感じてしまうからこそ、大切な人を見つけ、つながりを深めることの尊さが強調されていた。

1月・フォーラム仙台にて


第2位『夜明けのすべて』


個人的生涯ベスト級映画『ケイコ、目を澄ませて』の三宅唱監督が、瀬尾まいこ原作の小説を映画化した作品。
今しんどいかも、と思った時に観てもらいたい映画。主人公たちを囲む周りの人たちがとにかく温かくて、一つひとつのシーンで、人のやさしさに包まれたような気持ちになった。
心と身体のバランスが崩れかけたら、ゆっくり休んでいいし、周りの人にもっと頼っても良いのかなと思えた。家にいる子どもに、電話で追い焚き機能を説明する働くお母さん、仕事を続けることをさらっと伝えられて、嬉し涙を流す元上司、人の家でポテチを流し込む女友達。どれも涙が出るほど温かく、監督の人を見る眼差しの豊かさに救われた。
また、当事者だからこその自虐的なやり取りもきちんと描いていたのも好感が持てた。フィルムの温かみと、人間の温かみが調和して、本当に美しい映画だった。

2月・ムービックスつくばにて


第3位『めくらやなぎと眠る女』


第3位は、村上春樹の6つの短編を基に作られたアニメーション映画『めくらやなぎと眠る女』。
私はこれまで村上作品原作の映画を色々と観てきたが、この映画は、村上作品の独自の空気感を最も再現できているのではないかと思った。
俳優の演技を実際に撮影してからアニメーションの絵を作るという特殊な技法をとっているため、アニメの絵なのにどこか人間らしさを感じた。
村上作品を読んでいる時の、突然異世界に紛れ込んだかのような不可解な感覚が巧みに表現されていて、非常に面白い映画体験だった。

8月・フォーラム仙台にて


第4位『孤独の午後』


第37回東京国際映画祭にて鑑賞。
スペインの人気闘牛士たちの日常を淡々と描いたドキュメンタリー。
昨年のTIFFの審査員を務めたアルベルト・セラが監督を務め、今年のサン・セバスチャン映画祭で最高賞を獲得した。
今までの楽しげな闘牛のイメージが大きく覆った。闘牛と人の、言葉通り命のやり取りが繰り広げられていて、あまりの血の量に衝撃を受けると同時に、牛は何故人と闘わせられているのか疑問に思った。ただ人の娯楽のために動物の命が消費されることに理不尽さを感じたものの、どこかで闘いに興奮している自分もいて、人間の本能的に暴力を求めるものなのか、と恐ろしくなった。
映像的には日本で公開するのは難しいかもしれないが、またどこかで上映されることを願う。

11月・東京国際映画祭にて


第5位『SUPER HAPPY FOREVER』


2024年のベネチア国際映画祭オリゾンティ部門でオープニングを飾った五十嵐耕平監督の『SUPER HAPPY FOREVER』が第5位。
本当に、画が素晴らしすぎた。
無限に広がる青空と積乱雲に、赤い文字のタイトルバックがどーん!と出てくる。これだけで元がとれるくらい美しかった。
物語の展開も、男同士のどうしようもない友情を描いた後に、『ビフォア』シリーズばりのロマンスへと広がっていき、一緒に時間を共にしたかのような喜びと切なさが込み上げていく。
初対面の人同士の距離の詰め方のリアリティが凄くて、『街の上で』のようなときめきを感じた。前に進もうとする一言で関係性が終わってしまう恐怖を隣り合わせにしながら、2人だけで親密な時間を作っていく。この空気感を映画で表現してくれるのは最高だ。
あとは、男同士の喧嘩がリアルすぎた。本当にブチギレたら、睨みつけて、言葉も交わさずに出ていく。映画らしからぬ展開だが、これもまたリアル。一つひとつの場面が強烈な印象を残す、画で世界と戦える強い映画だと思った。

11月・新宿武蔵野館にて

第6位『HAPPYEND』


第6位は、空音央監督の初の劇映画である『HAPPYEND』。
これは近未来の『キッズ・リターン』だ!最高すぎる!
どのシーンも、胸がざわめき、グッと締め付けられる。宝物のような時間だった。
近未来の設定であるはずなのに、大地震も、総理の襲撃も、監視社会も、既に起きている事実なのが恐ろしい。
友達同士のすれ違い方もリアリティがありすぎて、胸が苦しくなった。ユウタの、裕福な家庭で愛されて育ってきた分、少し子どもっぽさが残る感じも分かるし、対照的に描かれているコウの状況の厳しさだったり、呑気なユウタにイラつく気持ちも分かる。でも、歳を重ねるほど、ユウタみたいな屈託のない存在に救われることが増えていくことも、分かっていくんだろうな。
そして、音楽の使い方も素晴らしすぎる!映画館ならではの音響で、響き渡る音の立体感が半端ではなかった。
ラストの映像の静止するシーンのタイミングも、全てが完璧だった。
本当に、新しい才能に立ち会えた瞬間だった。

10月・ムービックスつくばにて

第7位『哀れなるものたち』


2023年ベネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得した、ギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の大作が第7位にランクイン。
天才外科医の手によって蘇った若き女性ベラが、常人離れした成長を遂げながら、未知なる世界を旅し、時代の偏見から解き放たれて自由な人生を謳歌する物語。
とんでもなく面白かった!!
一人の改造された女性が、自らの好奇心を追い求めて、凝り固まった世界を自由と強さで解放していく様が素晴らしかった。ベラを演じたエマ・ストーンの成長の表現の仕方が凄まじく、物事を理解する過程を共に学ぶことができたし、目に映るものの新鮮さを楽しむことができた。
ベラの自由で解放的な姿を見て、いかに社会が色々なものを抑制していて、そこに生きる自分自身のことも抑圧してきたのかということに気づかされた。自分の呪縛を解き放ってくれる、大傑作だった!

1月・ムービックスつくばにて


第8位『ロボット・ドリームズ』


2023年の東京国際映画祭の時から気になっていた本作。1年の時を経てようやく鑑賞することができた。
ドッグとロボットの友情物語で、コミックのような絵柄からは全く想像できないほど切なすぎて衝撃的だった。
ドッグの寂しさゆえの身勝手な行動と、ロボットのにこやかで、純粋な行動が対比的に描かれていて、形は違えど、お互いのことを思いやっていることが伝わって泣きそうになった。
『September』の使い方が効果的すぎて、この曲が流れたら条件反射で泣いてしまうそうなほど沁みた。
『花束みたいな恋をした』『秒速5センチメートル』『ちょっと思い出しただけ』に匹敵する切なさと感動。ぜひ観てほしい!!

11月・新宿武蔵野館にて


第9位『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ』


昨年のアカデミー賞で助演女優賞を獲得した本作が第9位にランクイン。
孤独も寂しさも、誰かと分かち合えるのだという優しい希望に満ちた、素晴らしい映画だった。
年齢も性別も人種もバラバラでも、同じ時を過ごすだけで、心の連帯が生まれる。
皆それぞれ心に孤独を抱えていて、それが衝突を生むこともあるけど、お互いに寄り添いあえば、自分ひとりでは気づけない楽しさが転がっているのかもしれない。
心が寂しくなった時に、元気をもらえる作品だと思う。

7月・シネプレックスつくばにて

第10位『キル・ザ・ジョッキー』


第37回東京国際映画祭にて鑑賞。
2024年ベネチア国際映画祭のコンペティション部門で上映された映画で、伝説的な強さを誇るジョッキーが、勝利へのプレッシャーから精神を崩壊させてしまうが、逃避行を通して再びアイデンティティを取り戻していく、という物語。
訳のわからない展開で話が進んでいくため、頭で理解するよりも、物語に身を任せてただひたすら楽しんでいくしかなかった。理屈だったり、社会的な常識が行動の軸になっている自分のような人間にとっては、その文脈から解放された、自由気ままである意味破滅的なラテン・アメリカの映画がとても突き刺さる。もっと身体で、映画を、人生を楽しんでいいのだ!と教えてもらえた。

10月・東京国際映画祭にて


以上が2024年ベストテンになります。
他にも『違国日記』や『ナミビアの砂漠』、『ぼくのお日さま』、『悪は存在しない』など、日本映画の傑作がたくさん生まれた年でもありました。
様々な問題が噴出している日本映画界ですが、才能あふれる新人監督が、安心して映画制作だけに集中できる環境を整えれば、再び黄金時代が訪れるのではないかと思います。
また、やはり日本の映画賞では、海外の映画祭で評価された映画ばかりが持ち上げられがちですが、外的評価だけではなく、自分自身がどれほど心動かされたのか、という主観的な評価をもっと信じても良いのではないかと感じています。
私はこの十本が本当に素晴らしかったと思っているので、ぜひ多くの人に届いてほしいです。

皆さんのベストも教えてください!


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