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「死にたくなければドイツ車に乗れ」は本当か?

みなさんお元気ですか?

記事が遅れてしまい申し訳ありませんでした。

今回の記事では、「車は命を守る道具である」という原則に立ち返り、具体的な車名をあげて安全性を議論したいと考えています。

車の安全性、特に衝突時の乗員保護性能は私自身最も重視する観点ですので、今回はより一層真面目なトーンでいきたいと思っております。

車の性能というのは何も最大出力や0-100の値のみで決まるものではありません。自家用車が本質的には人を地点Aから地点Bまで運ぶものである以上、乗員保護性能こそ最も重要な観点であり、はっきり申し上げてエンジン出力などというものは付随的、趣味的なものでどうでもいいのです。

確かに「乗員保護性能などは気にせず乗りたい車に乗ればいいじゃないか」というご意見もあると思います。そのような方々にはぜひ安全性など気にせず、ご自身の好きな車に乗っていただきたいと考えています。何故ならば、彼らはリスクを十分承知の上で自分の好きな車に乗っているからです。本人が現に存在する安全性リスクを認知している場合には、全く問題がありません。車好きの中にはステアリングをSRSエアバッグの付いていないサーキット用のものに交換する人が多くいます。彼らの中で、未だフロントエアバッグが作動すると信じ込んでいる人はいません。みないざという時にエアバッグが出ないことを承知の上で乗っていますので、全く問題ありません。

しかしながら、車に乗る全員が全員車に精通しているわけでは勿論ありません。したがって、自分の車に存在する安全性リスクを全く認識せずに運転している人も多いのではないかと思います。特に、軽自動車はその傾向が強いのではないでしょうか。もし読者の方に軽自動車ユーザーの方がいらしたら非常に申し訳ないですが、私の持つ安全性懸念について語らせていただきたいと思います。

よく“Baby in car”というステッカーをつけ、時速60キロでバイパスを疾走する軽自動車を見ます。その度に私は非常に残念に思います。“Baby in car”というステッカーまでつけて子供を後続車から守ろうとしているのにもかかわらず、軽に乗っているからこそ子供を守れない、というジレンマを感じてしまうからです。

その安全性リスクを認識できないのは、消費者の責任ではありません。誰も教えてくれないので、知りようがないからです。巷の自動車評論で「この車の構造が実は危ない」とか「あの車の死亡が多い」などといった情報は基本的に出てきません。ましてや自動車メーカーが自社の製品のリスクについて積極的に言うわけもありません。

ところで、昨年の5月に、GEORGIA DEPARTMENT OF REVENUE(ジョージア州歳入局)が、非常に興味深い政策広報を発表しました。ちなみにDEPARTMENT OF REVENUEは税務署と同じです。

「日本の軽自動車と軽トラック」という題で、

https://dor.georgia.gov/document/document/policy-bulletin-mvd-2023-05-japanese-kei-vehicles-and-minitruckspdf/download

“The purpose of this bulletin is to notify County Tag Offices of the Department’s policy that prohibits the titling and registering of Japanese kei vehicles, minitrucks and similar vehicles (collectively, Kei Vehicles) in Georgia.”

『この通達の目的は、ジョージア州において日本の軽自動車およびミニトラック、その他類似の車両(以下「軽自動車」と総称)の登録および車両登録を禁止する当局の方針を郡のナンバープレート事務所に通知することである。』

という文章から始まっています。要するに、ジョージア州の公道における日本の軽自動車の走行は今後一切不可能になるということです。その理由は、軽自動車は米国連邦自動車安全基準(FMVSS)に準拠していない故、公道走行可能ではない、ということになっています。道路安全保険協会(IIHS)による「軽自動車は、最小かつ最も軽いFMVSS車両との衝突から乗員を保護できなかった」という報告に基づき、以上の決定を行ったようです。

軽自動車オーナーからは少なからず批判がなされているようですが、ジョージア州歳入局の判断は極めて真っ当ではないでしょうか。安全基準に則って製造されていないものは安全でないため走れない。これはあまりにも単純明快な理屈です。

ちなみに、米国では25年ルールなるものが存在します。米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)の規定により、製造されてから25年が経過した自動車はFMVSSに準拠していなくとも合法的に輸入可能となっています。ただしこの規定は連邦政府が米国に輸入可能であることのみを担保するものであって、公道走行の可否については言及しません。公道走行の許可を出すのは各州政府ですので、今回のように一部の州で認められない事案が発生します。

何が言いたいかと言えば、やはり軽自動車に対する安全性懸念は無視できないと言うことです。

ここで、安全性評価を比較してみましょう。
上記に申し上げたように軽自動車はFMVSSに準拠しておらず走行できませんので、米国での試験結果はありません。しかしながら、欧州ではスズキ・アルトが輸出されています。欧州の試験であるEuro NCAPの結果を比較してみましょう。比較対象は2009年モデルのVolkswagen Polo 1.2 TrendlineとSuzuki Alto 1.0 GLです。

https://www.carwale.com/volkswagen-cars/polo-2016-2019/trendline-12l-p/
https://www.carsguide.com.au/suzuki/alto/2009
Vw/PoloとSuzuki/Altoの比較

Poloの方が300 kgくらい重く一回り大きいですが、スペック的にはあまり変わりません。

ちなみに、アルトは軽自動車なので日本では660cc以下のエンジンでなければいけないわけですが、こちらはイギリス、ヨーロッパ輸出用ですので1リッターのエンジンを搭載しています。ただ重さが885kgしかないことを考えると、ボディの変更はなくエンジンだけ載せ替えて輸出しているのでしょう。したがって、ヨーロッパの基準に基づいて日本の軽自動車とドイツ車を比較できる非常に良い機会といえます。

結果はこちらです。

https://cdn.euroncap.com/media/7615/euroncap_vw_polo_2009_5stars.pdf
https://cdn.euroncap.com/media/7582/euroncap_suzuki_alto_2009_3stars.pdf

Poloの方が明らかに安全なのです。
大人の保護は、Poloが90%に対しAltoは55%
子供の保護は、Poloが86%に対しAltoは46%

これをみてPoloを選ばない人はいるのでしょうか??

やはり、長距離移動のためアウトバーン走行を想定したドイツ車と、市街地を低速で走ることが多い日本の軽自動車には、衝突安全性において決定的な差があると言わざるを得ません。

メーカーや販売店等は軽自動車のリスクを認めたくないのでしょうが、何のしがらみもない海外の機関に評価され結果が出てしまっている以上、認めないわけにはいきません。ちなみに、Volkswagen Polo 1.2 TrendlineとSuzuki Alto 1.0 GLは厳密にいえば同じ基準で評価されたわけではなく、Suzuki Alto 1.0 GLの方が甘い基準で評価されています。ポールへの側面衝突試験が「免除」されています。なぜならば、頭部保護エアバッグが付いていないので、電柱に似せたポールに側面衝突する試験をやっても意味がないからです。

今後も折に触れて色々な衝突試験結果を見ていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。

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