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チューブのなかにある「自分」という名の唯一無二のカラーを求めて

自分がパンパンではち切れそうな絵具のチューブのような気がしたことはありませんか? 
そのうえ、見えない指がチューブのあちらこちらをギュウギュウと、容赦なく揉みまくるんです。
それはもう、すごい圧がかかります。
でも蓋が閉まっているから、中味を出そうにも出すことができない……。
毎日その連続で私の心は疲労困憊。
チューブの中には「自分」という名のカラー、この世界のどこにも無い色、ここにしか存在しない色が詰まっているはずなのです。
ギュウギュウ押されても、まだ一度も蓋を開くことができず、自分でも中にどのような色が存在しているのかわからないままです。

ここ数年ずっとそういった状態が続いています。
自分が自分としてアウトプットできていない、そんな気持ちを持ち続けてきました。

時代性もあると思います。
特にあのAIの存在! 
これからAIが、人間ができる以上のことができるようになるというのは、皆さんご存じの通りです。

でも、あいつ(AIを敢えてこう呼びたいです)ができないことがあるはずなのです。
特にアートや美しいものが、人に作用し、身体の芯から湧きあがるような、時に自然に涙がこぼれてしまうような感動は、あいつには決して再現できないはず……。
でも、この考えは正しいだろうか?
自分なりにずっと問答してきましたが、なかなか答えが出ませんでした。
そういった焦りや模索こそが、まさにチューブを押すつぶすような見えない手の正体なのでしょう。

だからと言って、私はあきらめたくありません。
どうすれば答えにたどりつけるのだろうか、考え続けて思い当たったのが、アートのことを非常によく知る人たちに感動とは何かを聞いてみようという答えでした。

”アートをよく知る人たち”と思い浮かんだときに、美術商の方々に聞くしかないと思いました。

私は長年アートディーラーの加藤昌孝氏に師事し、絵を見る眼、向き合う姿勢を育ててもらいました。そのなかでわかった衝撃の事実が一つあります。

アートビジネスのプロは、時に絵画一枚で茶碗一つで何億円ものお金を動かします。いくらその作品が本物であるという書類がそろっていても、贋作であったというやりとりは水面下では日々起きていることです。つまり、最後は自分の眼が、生命線になるわけです。ですから、高額な取引を行う美術商の方々は、アートと対面するとき、目の前の作品と恋に落ちるほど情熱的であり、一方で非常に冷静というより冷徹でシビアなビジネスパーソンです。

彼らが選んだものが、美術館を飾ることはめずらしくありません。私たちは日常的なレジャーの一つとして美術館でアートを鑑賞し、感動したり、インスピレーションを得たりしますが、それらは知らず知らずのうちに間接的に美術商の眼の恩恵を受けていると言ってよいのです。

そういった背景のなかで始まったのが、さまざまな分野の美術商の方々にインタビューを行う『美術商に学ぶアート思考』です。

彼らは一体どうやってビジネスとアートという対極にあるものを成立させているのでしょうか?
そこにAI時代を、人が人として豊かに生きるヒントがある気がしてなりません。
私はそれを「アート思考」と呼ぼうと思います。
同じように、人間にしかできない何かがあるはずだと考える皆さんにぜひご覧いただけますと幸いです。

『美術商に学ぶアート思考』

浮世絵専門店 原書房(浮世絵)
話し手:原敏之
1970年生まれ。原書房の3代目として幼少期より浮世絵に囲まれ育つ。1995年より老舗オークション会社クリスティーズの日本美術部門担当としてロンドンとニューヨークに赴任。現在はその慧眼を生かして国内外のコレクター、美術館などに浮世絵を売買している。


加島美術(日本美術)
話し手:加島林衛(かしま しげよし)
1974年、東京生まれ。株式会社加島美術 代表取締役。


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ゴッホの眼から見た美しいもの、心動かすもの、世界のすがた
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