ゴッホの眼から見た美しいもの、心動かすもの、世界のすがた

株式会社VOICE OF ART 代表取締役・杉村五帆(すぎむらゴッホこと、すぎむらいつほ)が、アートを通じて審美眼や感性を磨くことについて考えるブログです。 https://www.voiceofart.jp/

ゴッホの眼から見た美しいもの、心動かすもの、世界のすがた

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最近の記事

チューブのなかにある「自分」という名の唯一無二のカラーを求めて

自分がパンパンではち切れそうな絵具のチューブのような気がしたことはありませんか?  そのうえ、見えない指がチューブのあちらこちらをギュウギュウと、容赦なく揉みまくるんです。 それはもう、すごい圧がかかります。 でも蓋が閉まっているから、中味を出そうにも出すことができない……。 毎日その連続で私の心は疲労困憊。 チューブの中には「自分」という名のカラー、この世界のどこにも無い色、ここにしか存在しない色が詰まっているはずなのです。 ギュウギュウ押されても、まだ一度も蓋を開くことが

    • アートは無機質のなかでこそ活きる有機質。浮世絵専門店 原書房vol.4

      昨今、アートコレクションを行うビジネスパーソンが増えている。現在、この連載で話をうかがっている浮世絵の老舗画廊・原書房の原敏之氏のもとへも国内外から多くの愛好家がやってくるという。そのなかでも今も忘れらないお客様について尋ねるとともに、理想の浮世絵とめぐり逢うために買い手として心がけたい点について聞いた。 ーー「アートを見て何かを感じられたらどんなに楽しいだろう……!」、美術館でそう思った人は多いかもしれない。この連載は、そういう方々のために存在している。日常にデジタルツー

      • 往々にして誰しも身近な良いものには気づかない。浮世絵専門店 原書房vol.3

        2024年、ニューヨークのオークションで葛飾北斎の代表作「富岳三十六景」の全46図が競売にかけられ、355万9千ドル(約5億3700万円)で落札された。2016年にはパリで歌麿の版画が、74万5000ユーロ(約8800万円)で落札された。海外における浮世絵ブームはとどまるところを知らない。 折も折、4回シリーズで話をうかがっているナビゲーターは、国内外の目の肥えた愛好家に信頼される浮世絵の老舗画廊・原書房の原敏之氏だ。今回は個人的に注目している絵師、特定の絵師の人気に火がつ

        • 浮世絵選びは、お客様への想いをこめた挑戦状。浮世絵専門店 原書房vol.2

          2025年の大河ドラマの主役は、浮世絵の版元・蔦屋重三郎だ。絵師の歌麿・写楽を世に送り出した、江戸時代のコンテンツキングである。そもそも風俗画として庶民階級から浮世絵が生まれたのは、1600年代後半だといわれる。およそ300年後の現在、世界中へとファン層を広げ、市場価値は上がりつ続ける一方だ。 折も折、4回シリーズで話をうかがっているナビゲーターは、国内外の目の肥えた愛好家に信頼される浮世絵の老舗画廊・原書房の原敏之氏だ。浮世絵という繊細な紙の作品が行き交う裏側にある、ビジ

          慧眼で選び抜いた浮世絵を提供する。浮世絵専門店 原書房vol.1

          「アートを見て何かを感じられたらどれほど楽しいだろう……!」、美術館でそう思った人は多いかもしれない。昨今の私たちは、日常にデジタルツールがあふれ、いかに速く正解を得るかというタイムパフォーマンスの技術には長けていくが、美術品を見て心が動くという経験からは遠のいているように感じられる。しかし、この時代にあってアートを見るアナログな感覚をビジネスとしてシビアに活用しているのが『美術商』たちである。 DXやAIの発展の加速に対して「アート思考」という言葉がブームになっている。意

          慧眼で選び抜いた浮世絵を提供する。浮世絵専門店 原書房vol.1

          中村勘三郎が導いた、過去・現在・未来

          「中村屋!」 「六代目!」 威勢のよい大向こう(おおむこう)が聞こえる。 ここは、浅草寺の裏広場に建てられた仮設の芝居小屋「平成中村座」。舞台に立つのは、若き六代目・中村勘九郎。見得(決めポーズ)を切るたびに、客席から掛け声が飛ぶ。 ステージを見つめる私の心は、十年前に戻っていた。勘九郎の父親である、故・中村勘三郎が演じる歌舞伎『隅田川続俤 法界坊』(すみだがわごにちのおもかげ ほうかいぼう)を見たのが、まさにこの平成中村座の一席でのことだった。 そのエンディ

          最も強い希望は、絶望から生まれる

          「馬鹿者! 今すぐ切符を買い直してこい!」 イギリス北部のハロゲイトという町で、25歳の私は社長に怒鳴られて涙を流していた。日本から数人の顧客を連れてファッション展示会を視察するための出張中の出来事。お客様の一人が急いでロンドンへ行きたいということで、代わりに私が列車の切符を駅へ買いに行った。しかし、行き先が違う切符を買ってしまったのだ。英語が苦手な私はそれに気づかなかった。 「どうして、外国でこんなに辛い目に逢うの?」 私の役目は、この視察ツアーで社長をアシストするこ

          何も咲かない寒い日は。高橋尚子さんの教え

          今日は最近ファンになった、高橋尚子さんについて書きたいと思う。 高橋尚子さんは、言わずと知れた2000年のシドニーオリンピックで金メダルを取ったマラソン選手。Qちゃんという愛称でおなじみだ。女子スポーツ界で初の国民栄誉賞を受賞し、国内外の大会でも記録を残したあと、2008年に現役を引退した。 彼女が活躍していた時代、私はスポーツやオリンピックにほとんど興味がなかった。大きく取り上げられたニュース記事だけ義務的に目を通す程度であった。 そんな私でも高橋さんの活躍は知

          オリジナルであるために学び続ける

          「オリジナルであるために学び続けろ」 音楽家の坂本龍一さんがそう言ったらしい。 世界的に活躍するようになっても、学びに終わりはないということだろう。 私は淡々と日常を生きる平凡な人間だが、その言葉には共感する。 理由は、50代で学び始めた書道にある。 思いつきのようなかたちでスタートしたが、いまや自分の生きがいとなり、時にインスピレーションの源となってくれていることを感じるからだ。 そもそも私は、子供の頃から字がとてつもなく下手だった。 「これ、暗号だよね

          美大に進学したい女子高生の悩みから、アラフィフが学んだ話

          「親に美大進学を反対されています」 ある日、新聞を読んでいるとこのような悩み相談が目に入った。私は、アートの仕事をするなかで、アーティストが生計をたてていく大変さを見聞きしていたので意識しないうちにその記事を目で追っていた。 質問者は、高校2年生。両親に美大の受験に合格するために、専門の塾に通いたいことを相談したところ大反対された。両親と同じ医療系の道へ進むように諭されたが、興味を持てない。両親を説得する方法を知りたいという内容だ。 50代の私は、子供の将来を心配

          美大に進学したい女子高生の悩みから、アラフィフが学んだ話

          初心者からワンランクアップした、日本美術鑑賞のコツ

          あの時の緊張を乗り越えたから、今この感動があるんだ……。 私は、目の前にある作品のあまりの美しさに涙目になりながらガラスケースをのぞきこんだ。そこには長さ約14メートルに及ぶ絵巻物が広がっている。「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」(つるしたえさんじゅうろっかせんわかかん)という江戸時代初期の重要文化財で、端から端まで歩くとだいたい20歩となる大作だ。 東京国立博物館の『本阿弥光悦の大宇宙』で披露されたこの作品は本阿弥光悦と絵師の俵屋宗達という美術史上稀に見る天才アーティストたちに

          初心者からワンランクアップした、日本美術鑑賞のコツ

          人生を啓蒙するドラマ、岸辺露伴は動かない

          先日放送されたドラマ『岸辺露伴は動かない』を見て、自分が妖怪にとりつかれていたことに気づいた。 きっかけは、Facebookのそれほど親しくない男性の投稿を見たことだった。 空港のラウンジで撮った写真が一枚載っている。パナソニックのノートパソコン『レッツノート』がテーブルに開かれ、わきにグラスの七分目まで注がれたスパークリングワインと生ハムのようなものが写っている。 「これから福岡へ出張」という出だしで始まり、以下のような文章が続いていた。 「毎日、全くおもしろくない

          ゴッホの魂を受け継ぐライターよりご挨拶

          美しい景色を探すな。 景色の中に美しいものを見つけるんだ。 画家・ゴッホの言葉です。ひまわり、夜のカフェテラス、郵便配達人など目に入ってきた身近なモチーフを全力で描いた彼の信念が感じられます。 皆さんは、ゴッホというと、どのようなイメージをお持ちでしょうか? 情熱家? 不遇の画家? どれも正しいと思います。 ゴッホは、37歳で亡くなりました。自らの命を絶ったのです。画家として活動したのは、約10年です。しかし、その短期間に見る人の心を動かす油彩を900点以

          思想が宿る作品への気づきが暮らしに面白さを生む。加島美術vol.4

          2023年3月21日、衝撃的なニュースが流れた。葛飾北斎の浮世絵がニューヨークのオークションでおよそ3億6千万円という記録的高値で落札されたのだ。その数年前には伊藤若冲の作品が約1億7千万円で競り落とされ話題となった。昨今、日本美術は海外でさらに高い評価を受けはじめている。私たち日本人は豊かな美術の土壌に暮らしながらも何かを見落としてはいないだろうか。今回は古美術の聖地である京橋に若くして日本美術の画廊を構える加島林衛氏を訪ね、4回にわけて話をうかがうシリーズの最終回となる。

          思想が宿る作品への気づきが暮らしに面白さを生む。加島美術vol.4

          強い思い、強い興味が巡り合わせを引き寄せる。加島美術vol.3

          日本に国宝がいくつあるかご存じだろうか? 答えは、1137件である(2024年現在)。重要文化財の数はおよそその13倍に及ぶ。これらは価値の頂点を極めた名品のエリートと言っても過言ではないが、実は新たな品が追加されることで国宝と重要文化財の件数は年々増え続けている。美は身近で眠っているのだ。今回は古美術の聖地である京橋に若くして日本美術の画廊を構える加島林衛氏を訪ね、4回にわけて話をうかがうシリーズの第3回目となる。 AI技術の隆盛でいかに速く目的を達成するかというタイムパフ

          強い思い、強い興味が巡り合わせを引き寄せる。加島美術vol.3

          アートは心のトレーニング。正解のない世界をおおらかに味わって。加島美術vol.2

          あなたは、歴史ドラマを見るタイプだろうか? もし関心がなくとも番組に登場するような戦国武将の手紙や大名ゆかりの掛け軸、維新の志士たちの直筆の書を買って部屋に飾ることができると聞くと驚くのではないだろうか。それを可能にするのが美術商である。今回は古美術の聖地である京橋に若くして日本美術の画廊を構える加島林衛氏を訪ね、4回にわけて話をうかがうシリーズの第2回目となる。 AI技術の隆盛でいかに速く目的を達成するかというタイムパフォーマンスに注目が集まる一方で、対極として『アート思考

          アートは心のトレーニング。正解のない世界をおおらかに味わって。加島美術vol.2