ゴッホの眼から見た美しいもの、心動かすもの、世界のすがた

杉村五帆が、アートを通じて審美眼や感性を磨くことについて考えるブログです。 https…

ゴッホの眼から見た美しいもの、心動かすもの、世界のすがた

杉村五帆が、アートを通じて審美眼や感性を磨くことについて考えるブログです。 https://www.voiceofart.jp/

最近の記事

007の仕事術~ヒラ社員が美学に目覚めた日~

「あーあ、今日の睡眠スコアは60か……」 スマートウォッチで睡眠スコアを測り始めて3年になる。スコアの基準は、80を超えると熟睡できたという証拠。実に頭がスッキリしている。60点台だと睡眠不足。どこか頭がぼーっとしているのでその日は、ミスをしないように気を付けなければならない。 「私がボンドなら、スコア60でもバリバリ仕事ができるんだろうな」 『ボンド』とは、映画007シリーズの主役ジェームズ・ボンドのことである。彼は、イギリスの諜報機関MI6のスパイ。映画のなかでは、

    • 弱さを輝きに。マリリン・モンローの映画ベスト5

      「えっーと、 グレンドン・アベニュー1218……」 私は、パーカーのポケットから手書きのメモを取り出した。1990年代があと数年で終わりという初夏のある日、ロサンゼルスの市営バスを乗り継ぎある場所を目指していた。ウエストウッド・メモリアルパーク墓地だ。アメリカ出張の合間に念願のマリリン・モンローの墓参りに行くつもりだった。 その日の服装は、グレーのパーカー、下は普段着のジャージであった。墓参りの格好としては、ふさわしくないと思われることだろう。それには理由がある。 私は

      • 美しき茶道の師範から学んだ、人生の真髄

        「どうしてこの人のように生まれなかったのだろう?」 私は、そんなふうに他人の人生に強く憧れたことがある。三ヶ月間、茶道を習った先生に対してだった。 あれは30代になったころだから、20年以上前のことだ。 会社で営業を担当していた私は、多忙な日々を送っていた。といってもそう思っていたのは本人だけだろう。何事も一生懸命やれば上手くいくはずという視野の狭さが足をすくって、ミスが生じることが多かった。そのリカバリーで時間がどれほどあっても足りなかった。 そんなときに納品ミスが

        • 国宝が国宝を見る、国宝展

          今、日本のなかでクリスマスのディズニーランド並み、いやそれ以上に人気を集め、ごった返している場所をご存知だろうか。 それは上野の東京国立博物館で開催中の「国宝展」である。 同館が所蔵する古文書や工芸品などすべての国宝89点が、初めて一挙に公開されている。 例えば、武装した人物をかたどった埴輪、奈良時代の竹厨子、平安時代や鎌倉時代につくられた宝剣、甲冑、掛け軸、浮世絵、茶碗、屏風などである。教科書で見るような品々が、右を見ても左を見ても陳列されているといえばイメージしていた

          猫とモーツァルトとともに迎える、美しい朝

          朝、目が覚めると毛だらけの顔が隣で軽い寝息をたてている。 わずかな気配を察して薄目をあけたその子に「先に起きるよ」と言って、上半身を起こす。すると、ふとんの上の、私の足と足の間にあたるくぼみを利用して寝ていた二匹が「おはよう」という表情で私を見上げる。 なんて素敵な朝の風景だろう。私は三匹の愛猫とともに目覚めているのだ。 寒い時期だけ三匹は私の寝室で夜を過ごす。まるで冬季にしか販売されない限定チョコレートのように、これは冬の朝限定の自分へのごほうびだ。 とは言うものの

          我が愛しのコム・デ・ギャルソン~バブルから令和まで~

          「おっはよう!」 「え? あなた誰?」 私はその女性に不審な表情を向けた。 「もしかしてミキ?」、その姿に私はあっけにとられた。 そこは都内の女子大の教室。朝の講義がはじまるタイミングで、100人くらい入る教室は、女生徒たちで活気づいていた。その女子大は、中高大学が一貫だった。地元の女子大生は、都会的でファッショナブルだったから一目見てわかった。 私は、もともと中国地方の田舎出身だったこともあり、人が多いところが苦手。まして、同じ年なのに洗練された都会出身の女性たち

          我が愛しのコム・デ・ギャルソン~バブルから令和まで~

          明日からまねできる、指揮者の健康寿命の秘密

          世紀の発見をした、と思った。 この世で間違いなく健康寿命が長い職業の人たちがいるのだ。 それは、クラシック音楽の指揮者たちだ! そう確信したのは、たまたまテレビで96歳を迎えた指揮者のヘルベルト・ブロムシュテットさんの特集を見た時のことだ。 アメリカ生まれのスウェーデン人で、日本のNHK交響楽団の桂冠名誉指揮者(長年にわたってそのオーケストラに貢献した人に贈られる称号)である。 一般の人にとって、指揮者や奏者というと孤高で近寄りがたいイメージがあるのではないだろうか。

          明日からまねできる、指揮者の健康寿命の秘密

          私だけのカリスマ、アートディーラーMr.K

          美術館へ行ったとき、一周見てまわるのにどのぐらいの時間がかかるだろうか? 絵画を鑑賞して解説を読んでいると1、2時間かかるという人もいるかもしれない。 ところが、15分で入って出てくる人がいるのである。 その名は、アートディーラーMr.K。 私が、カリスマとして尊敬するビジネスパーソンだ。 彼の仕事は、絵画を売買すること。といっても想像がつかない人のほうが多いだろう。 美術館にある絵画を思い浮かべてみてほしい。絵は画家の手を離れたあと、教会や貴族、裕福な商人などに

          今見ておかないと無くなってしまう美術館ツアー

          人は失って初めて大切なものに気づく。 家族や恋人など人間関係についてよくそう言われる。 モノや施設についても同様だ。例えば、ローカル線が営業不振で廃線になることが決まったり、老朽化した百貨店や遊園地などがなくなるというニュースを知ったとたん、閑古鳥が鳴いていた場所に大行列ができる。何かを喪失するという恐怖は、人を突き動かす。そして「こうなるのがわかっていたら、何度も行くべきだった。もっと見るべきだったのに」という後悔にとらわれる。それは誰しも覚えがあるのではないだろうか。

          今見ておかないと無くなってしまう美術館ツアー

          誰よりも臆病で見栄っ張りの自分へ、現代アートからのメッセージ

          「これ、上手く書こうと思って書いたでしょう」 私はドキッとした。通っている書道教室で、いつものように先生に仕上げた文字を添削してもらっているときのことだった。 「見抜かれた……」 体の芯から恥ずかしさが湧いてきて、あっという間に足の先から頭のてっぺんまで満たしていった。 その日、私の机のまわりは、課題の文字を書き散らした半紙で山ができていた。どうしても「これだ」という文字が書けないのだ。ここで学び始めて今年で4年になり、これまでスムーズに昇級し、上達してきた。しかし、

          誰よりも臆病で見栄っ張りの自分へ、現代アートからのメッセージ

          3つの名言ですぐわかる、天才・ピカソの鑑賞方法

          30億円が手元にあったとしたら、あなたは何に使いますか? 世界一周旅行? タワーマンション? 一部屋買っても、まだ数部屋買えるくらいおつりがきてしまいますね。 実は先日、ロンドンのオークションでおよそ30億円でピカソの絵が落札されました。そう、たった一枚の絵画に大金を投じる人たちがこの世には存在しています。 ピカソ。皆さんはこの画家にどういうイメージをお持ちですか? おそらく多くの人が、人や物を幾何学的図形に置き換えた独特の作風を思い浮かべるかもしれません。これは、キュ

          3つの名言ですぐわかる、天才・ピカソの鑑賞方法

          熱海で推し活、尾形光琳の紅白梅図屏風を訪ねて

          「毎日が、楽しくて仕方ないの!」 女友達と久しぶりにカフェで会ったときのことだ。席に座るなり彼女は周囲が振り向くほどの高いトーンの声でそう言った。目の前にいるのは昔の会社の同僚で、いつもなら人見知りで話下手な私の言葉に静かに耳を傾けてくれるところが数年来のつきあいにつながっていた。しかし、今日は別人のようだ。服装と化粧はうって変わって華やかで止めどなく言葉があふれだしてくる。 その変化の理由は、昨年からある俳優の推し活をはじめたからであった。演じても歌っても絵になる年齢不

          熱海で推し活、尾形光琳の紅白梅図屏風を訪ねて

          未来が楽しみで仕方ない、人生を生き切るということ

          「0.1秒でも早く『働かない人生』を実現したいあなたへ」 本屋の店頭で手に取った本の1ページ目を開くとこう書いてあった。 本のタイトルは、『FIRE~最強の早期リタイア術』。クリスティー・シェンとブライス・リャンの共著である。 この本には、二人が貧困の幼少期からさまざまな経験と仕事を経て、経済的自由を手に入れるまでの経緯が書かれている。 FIREとは、”Financial Independence, Retire Early” の頭文字をとって生まれた言葉で「経済的自

          未来が楽しみで仕方ない、人生を生き切るということ

          心があたたかく溶けていく、モネの絵の前

          私には、癒される空間が世界中に2000カ所近くある。 「スターバックス?」 と多くの人は思うかもしれない。 それは特定のカフェや店ではない。 ある絵の前なのだ。 そこに立つと、昔から自分を指導してくれた懐かしい恩師と再会したような感覚で胸がいっぱいになる。 その画家の名前は、モネ。 1840年にフランスに生まれた、印象派を代表する画家だ。『印象・日の出』という作品が有名で、印象派の名前の由来になった。美術の教科書に必ずといってよいほど取り上げられているので記憶に残

          アートが教えてくれる理想の結婚と夫婦のかたち

          「やめるときも、すこやかなるときも……」 この結婚の誓いの言葉のもと、私はどれほどの新郎新婦を祝福とともに送り出したのだろうか。数えてみたところ約8万組であった。 私は現在アート関係の仕事をしているが、それ以前は20年超、結婚式場で働いていたのだ。 結婚式というと砂糖菓子のように甘美なイメージが先行する方が多いかもしれない。そのベールを一枚はがすと、中身は完成されたビジネスモデルが存在している。顧客満足と利益追求の上に成り立つ企業が経営しているのだから当然だといえる。

          アートが教えてくれる理想の結婚と夫婦のかたち

          挫折ばかりの人生でした。でも……写実画家・塩谷亮さん

          皆さんは、画家という職業にどのようなイメージを持っていますか? 型にはまらない自由人? 破天荒な情熱家? 私自身そんなイメージをどこかで持っていたことは正直否めません。 ですが、それが思い込みであったことをあらためて教えてくれたのが、zoomの画面の向こう側にいる人でした。 その名は、塩谷亮さん。 日本を代表する写実画家です。 昨夜は、来年早々に開催されるオンライン講演の打合せ。 講師を務める塩谷さんは、アトリエからzoomに参加してくださいました。 ところで、「写実

          挫折ばかりの人生でした。でも……写実画家・塩谷亮さん