見出し画像

アートって禅なの? 禅はアートなの?  

こんにちは。VOICE OF ART の五帆です。

よく「日本人は無宗教だ」と言われます。
ほんとうにそうでしょうか?

例えば古代のギリシャでは、

「私は、美しくなりたいからヴィーナスを拝むの」
「楽しく暮らしたいからバッカスを祀ったんだ」

など、自分のありたい姿や心情に合わせて自由に崇めるものを選び、時に複数の神を信心の対象としていました。

宗教には、その人の生き方を縛り付けるような強いものも存在していますが、一方で自然と心に浸透するような支えとなるものまで幅広く含まれるのではないでしょうか。
そのように考えた場合、私にとっての身近な宗教は禅なのかなぁと思います。

禅というとお坊さんが厳しい顔で座禅を組んでいるイメージが浮かぶかもしれません。
実は、私はそれほど難しく考えておらず、身も心もリラックスした状態で、世界に溶け込み、いかに最期まで自分であれるかを追求することだと解釈しています。

若くてして禅の思想に傾倒した、鈴木大拙

鈴木大拙(すずき だいせつ)という仏教学者をご存知ですか?

1870年に石川県金沢市に生まれ、大学在学中に鎌倉の円覚寺に禅を学び、「大拙」という号を受けたそうです。その後、禅の研究を続けるとともに世界にその思想を広める役割を果たしました。

私が初めて彼の名前を知ったのは金沢に鈴木大拙館ができたというニュースがきっかけでした。

その時は、ふっと聞き流してしまいましたが、それ以後、私は仏教思想に関心を持ち、サンスクリット語で般若心経を習ったり、「マインドフルネス」の概念を広めたベトナムの禅僧であるティク・ナット・ハンの講演会に参加したり、某大学の坐禅部による講和の会に参加して、自分なりの考え方を深めました。

久しぶりに鈴木大拙の名前を見たのは、先日のこと。ワタリウム美術館の「鈴木大拙展 Life=Zen=Art」でした。

鈴木大拙の書やゆかりの品はもちろん、彼に影響を与えた江戸時代の絵師から、逆に影響を受けた坂本龍一、ナムジュン・パイクをはじめとするアーティストまで、さまざまなジャンルの作品が展示されています。

ユニークなのは、円座に座り、学芸員さんの話を書を見ながら聞けることです。
仏教学者というと近寄りがたく感じますが、大拙の書は、このようなものです。


鈴木大拙「△□不異〇(色不異空)」
出典:ワタリウム美術館HP

これって、まさにアートではありませんか?

彼が尊敬した江戸時代の禅僧・画家である仙厓義梵(せんがい ぎぼん)の大胆な書と比較する学芸員さんの解説により、大拙が書を視覚に訴える手段としてとらえ、禅のメッセージを表現していたことが理解できました。

影響を受けた、ジョン・ケージとサリンジャー

また、彼がアメリカで講演を行った際にクラシック音楽界の異端児(私は勝手にそう解釈しているのですが)、現代音楽家のジョン・ケージや「ライ麦畑でつかまえて」のサリンジャーが、それを聞き、インスピレーションを得たそうです。
クリエイティビティを刺激されたのでしょね。
とても面白いエピソードでした。

禅の思想は、国境を越えて多くの人の心に訴えるような何かを持っているようです。
しかし、重要なのはそれを正しく理解した人が、エッセンスをいかにわかりやすくキャッチーに伝えていけるかということなのでしょうが、その媒介者としての役割を果たしたのが鈴木大拙という人で、その手段の一つが書でした。

私自身、未熟な身ですが、書道をたしなんでいて将来は、書を通じて何かをつくりだすことを目指しています。

なぜ書を選んだのかを振り返ると、文字を書くというシンプルな行為は、座禅に通じるものがあると直感したからかもしれません。
何度も同じ字を書くことで一字に長時間集中しますし、跳ね、払い、留めなど細部まで観察し続けることが表現につながります。

今回の展示では、禅からスタートしたさまざまなアーティストの模索の過程や完成形を見ることができ、衝撃的を受けました。

ちょっと乱暴かもしれませんが、禅は、アートになり得るし、アートは禅になり得ます。
にわとりと卵の関係とでも言うのでしょうか。
とても印象深い展覧会となりました。

ワタリウム美術館さん、企画をありがとうございました。

写真出典:ワタリウム美術館

ワタリウム美術館
鈴木大拙展 ~10/30(日)


#ワタリウム美術館  #鈴木大拙 #サリンジャー #禅 #仙厓義梵 #般若心経  #仏教


いいなと思ったら応援しよう!

ゴッホの眼から見た美しいもの、心動かすもの、世界のすがた
ご興味をお持ちいただきありがとうございます。 サポートい頂きましたら、世界中に分散したゴッホを訪ねる資金とさせてください。 ゴッホは、欧米はもちろん、イスラエル、南米、オーストラリアの美術館にも展示されています。 現地からのオンライン配信、noteでのレポートを行うつもりです。