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【1月のAudible読書メモ②】



『古本食堂』原田ひ香

美希喜(みきき)は、国文科の学生。本が好きだという想いだけは強いものの、進路に悩んでいた。そんな時、神保町で小さな古書店を営んでいた大叔父の滋郎さんが、独身のまま急逝した。大叔父の妹・珊瑚(さんご)さんが上京して、そのお店を継ぐことに。滋郎さんの元に通っていた美希喜は、いつのまにか珊瑚さんのお手伝いをするようになり……。カレーや中華やお鮨など、神保町の美味しい食と心温まる人情と本の魅力が一杯つまった幸せな物語。

Audible HPより

こんな古本屋があるならば、ぜひ行ってみたい。そして、今の私に必要な本をお勧めしてほしい。その上、神保町のおいしいテイクアウトも頂ける、あるいはおいしいお店を紹介してもらえるとなれば、通ってしまうだろう。心もお腹も温まる場所と会話に出会えるかもしれないという淡い期待をもって、本当に神保町をうろつきたくなる、そんな作品だった。


『母という呪縛 娘という牢獄』齊藤彩

「医学部9浪」の娘はなぜ母を刺殺したのか−。司法記者出身のライターが、獄中の娘と交わした膨大な量の往復書簡をもとにつづる、「学歴信仰」に囚われた人たち、そしてすべての母と娘に贈るノンフィクション。

「TRC MARC」の商品解説より


この本を聴き始めたのは、昨年の年末からだった。
あまりに重くて、苦しくて途中何度も中断。
けれども、このままでは私の中でずっと暗く重いものが残るだけだと思い、意を決して最後まで聴いた。

あかりの「母」について、その生い立ちを知りたくなった。人は「育てられたようにしか育てられない」のであれば、あかりの「母」は、どのような子どもでどのように育てられたのか、どんな学生時代を送ったのか、人生で何が楽しかったのか。考えずにはいられなかった。

読みながら、罪を犯す前にあかりがどこかに助けを求めていればと何度も思った。内々のことは、外に言いだしにくい。9浪するほど長い間苦しんだ彼女の20代を思うと、早く逃げてと何度も叫びたくなった。

教育虐待に至ってしまうのは、程度の差こそあれ多くの家庭に内包されている問題だと著者は序章で述べている。それ故、家族間で問題を抱えている全ての人にこの本が届くようにとの願いが込められたこの本の意義は大きいと思う。

日本語学校で進学指導をしていて、時々親からの期待につぶされそうになっている学生を目にすることがある。自分のやりたいことよりも、親のひいたレールの上を行かなければならない学生を見ると、本当に心が痛くなる。私にできることは小さいことでしかないが、学生の気持ちに寄り添い、話を聞いてあげたいと、読後はより一層思った。

『旅行者の朝食』米原万里

その名を聞いただけでロシア人なら皆いっせいに笑い出す「旅行者の朝食」というヘンテコな缶詰や、数十年前たった一口食べただけなのに今も忘れられない魅惑のトルコ蜜飴の話、はたまたロシアの高級輸出品キャビアはなぜ缶詰でなく瓶詰なのかについての考察や、わが家を建てる参考にとはるばる神戸の異人館を見に行くも、いつのまにか食べ歩きツアーになっていたエピソードなど、ロシア語通訳として有名な著者が身をもって体験した、誰かに話したくなる食べ物話が満載です!

Audible HPより

特に印象に残っているのは、「ハルヴァ」という名前のお菓子について。著者が小学校3年のときに一度だけ食べたお菓子にまつわる話。あまりのおいしさにもう一度食べてみたい、家族にも食べさせたいという思いから最後はある文献にいきつく。そこで明かされるこのお菓子を作るための秘密が知れたときには、米原さんの飽くなき探究心、探求心(あえて両方表記したい!)に驚いた。

もっとこの本に早く出会っていれば、トルコの学生がいたときにこの話ができたのにと悔やまれる。次にトルコの学生が入学するまで、覚えておきたい。

食べ物以外の話では、ロシアの小噺に熊がたくさん出てくることが、なんともお国柄が出ていて面白い。ことわざなどにも日本なら狸が使われているところに熊が使われていたりして、くすっとしてしまう。

未知の食べ物に対する三人のロシアの政治家の態度についての記述もとても興味深い。


『職業としての小説家』村上春樹

いま、村上春樹が語り始める――小説家は寛容な人種なのか……。村上さんは小説家になった頃を振り返り、文学賞について、オリジナリティーについて深く考えます。さて、何を書けばいいのか? どんな人物を登場させようか? 誰のために書くのか? と問いかけ、時間を味方につけて長編小説を書くこと、小説とはどこまでも個人的でフィジカルな営みなのだと具体的に語ります。小説が翻訳され、海外へ出て行って新しいフロンティアを切り拓いた体験、学校について思うこと、故・河合隼雄先生との出会いや物語論など、この本には小説家村上春樹の生きる姿勢、アイデンティティーの在り処がすべて刻印されています。生き生きと、真摯に誠実に――。

Audible HPより

小説を書く人の頭の中はどのようになっているのだろう?-そんな問いからこの本を聴いてみようと思った。

キャラクター設定について、彼がそのプロセスに個人的にある名前をつけているのだが、そのネーミングと意味がとても可愛らしく、意外でとても印象的だった。

海外へ出て行った理由も非常にわかりやすく書かれていて、聴いていて納得感のある内容だった。

全体を通して「こしらえる」という言葉を何度か使っているのがとても心に残った。ただ単に「作る」のではなく「創る」ことに意識が向いているからこその言葉のチョイスなのだろうか。何かそこにこだわりを感じずにはいられなかった。


前回の読書メモに書いた『板上に咲く-munakata beyond van gogh』(原田マハ)があまりに良かった。ずっと余韻に浸っていて、新しく何を聴いても何だが頭に入ってこなくて、ペースを戻すのに時間がかかった。読書メモの更新がずいぶん遅れてしまった。

今聴いているのは、『海辺のカフカ』だ。聴きたくて選んだというよりは必要に駆られて。プレゼンの授業でこの本について発表する学生がいるからだ。彼女の発表日までに聴き終わるだろうか。今回、『職業としての小説家』の後に『海辺のカフカ』を聴くことができてよかったと思う。順番が違っていたら、小説の構造の複雑さにきっと「ぎゃ~」と叫んでいたと思う。この順番でも「うっ」ってなっているが・・・。


紙の本も少しずつ読み進めている。
先日つぶやきで紹介したみゃー先生の『明日も元気に学校に来てください』だ。教える対象は違うけれども、授業のヒントをいただいたり、可愛い小学生の言動にくすっとしたりしながら優しい気持ちになっている。


最後までお読みいいただき、ありがとうございました。
また次のnoteでお会いしましょう。



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