B2B SaaSのProduct Market Fit (3) -PMF検証の実際の進め方-
前回の記事で、B2B SaaSでは、Product Market Fit(PMF)の検証として、ユーザーの日常業務に入り、ユーザーの事業に対してプロダクトが与える影響の検証が必要になります。そのため、Minimum Viable Product(MVP。事業の価値を検証できる必要最小限のプロダクト。)として、ある程度まで開発が進んだプロダクトが必要と述べました。
一方で、スピーディーに検証サイクルを回すことが、スタートアップがPMFに到達する数少ない道です。この両者の要請を充足させるために、(1)仮説検証項目を明確にし、可能な範囲で検証を進める方法と、(2)Product User Fitを分けて検証する方法があると述べました。
今回は、実際のPMFの検証プロセスの実際の進め方について考察したいと思います(なお、このPMF検証プロセスには、PUF検証も含まれます。)。
PMF検証の進め方の基本
PMF検証は、基本的には、ユーザーへのヒアリングや使用シーンの観察等を通じて「満足度の高いユーザーと満足度の低いユーザーを発見し、前者の満足度をより上げ、後者の不満ポイントを潰す」ことにより進めます。そして、そこで発見したインサイトを抽象化することにより、プロダクトに対する価値を検証したり、Go-to-Marketに関する仮説を構築します。
このアプローチの詳細に関しては、下記のSuperhuman社の事例が具体的で詳しいです。このSuperhuman社の事例に書かれたステップの中で、重要な3ステップに考察を加えながら、実際のPMFの検証プロセスを見ましょう。
PMFの検証ステップ(0):早い段階からプロダクトの価値の検証を始める
今回のSuperhuman社の事例では、プロダクトのα版が出来た段階でプロダクトのティザーサイトを作り、初期ユーザーを集めて、上記のサイクルを回しています。
ただ、その前にプロダクトの開発が少し進んだ段階で、プロダクトが解決しようとする課題やプロダクトのイメージをかいた「提案資料」を作り、実際にユーザーを訪問し、インタビュー等を通じて下記サイクルを回し始めるのもPFM検証をスピーディーに進める上で重要かと思います。これはSuperhuman社と異なり、比較的に大きな企業をターゲットとする場合は特に重要です。
また、PUF検証として、早い段階からユーザーに対して密着してプロダクトの仮説検証を進めることによりPMF検証をスムーズに行うアプローチも有効です。Superhuman社の事例で言えば、初期の開発途中の段階で、プロダクトのコンセプトが刺さった少数のユーザーにフィーチャーすることによりプロダクトに対して親和性の高いユーザーのペルソナを明確にし、下記サイクルを回し始めるイメージです。
PMFの検証ステップ(1):プロダクトに対して親和性の高いユーザーを特定する
Supuerhuman社の事例にありますように、初期の段階では、顧客セグメントを狭める必要があります。なぜならば、初期段階から顧客セグメントを拡大すると、ユーザーの課題や日常業務に深く入り込んだプロダクトの価値創造、特に「既存の業務オペレーションを変更し、今すぐこのプロダクトを使う理由は何か?」の明確化が出来なくなるからです。最初はProduct User Fitを意識して、特定の顧客に強く刺さるプロダクトにする必要あります。
同社の事例では、アンケートを通じてユーザーのPMF程度を計測し、それに応じてユーザーセグメントを分け、そのペルソナを描いています。そして、プロダクトが無ければ非常に失望する、プロダクトに対して親和性の高いユーザーをHXC(Hight-expection costumer = 期待度の高い顧客)とし、HXCのニーズを深堀することにより、他よりも圧倒的に良いプロダクトとすることに全力を注いだとのことです。
この「プロダクトに対して親和性の高いユーザーの特定」→「そのペルソナの設定」→「そのユーザーにフォーカスした開発」のアプローチは、PMF検証の上で非常に効率的です。
PMFの検証ステップ(2):フィードバックを分析し現在のユーザーをより熱狂的なものにする
Superhuman社の事例では、プロダクトの価値を先鋭化するために、アンケート等を通じて「プロダクトが無ければ非常に残念と思う」ユーザーが、プロダクトが愛している理由を定性的に深堀して分析しています。その中で「スピード」というプロダクトの魅力を抽出しています。
これはPFM検証のエッセンスが含まれています。ユーザーの「プロダクトが愛する理由」を理解することは、強固に支持されるプロダクトを開発する上で不可欠です。そして、B2B SaaSの場合、これは「既存の業務オペレーションを変更し、今すぐこのプロダクトを使う理由」になるでしょう。なぜならば、B2B SaaSの場合、ユーザーが「プロダクトを愛する理由」は、売上や生産性の向上、コスト削減や業務効率化の観点で既存の業務オペレーションが改善する、に尽きるからです。ユーザーの日常業務や実際のプロダクトの活用の文脈で、その「愛されている理由」理解することにより、ユースケースも生まれるでしょう。
その後「プロダクトは無ければ少し残念に思う」ユーザーにも着目しています。今度はプロダクトが愛されている理由である「スピード」を基軸に、そのユーザーに満足してもらうための手段も分析しています。なお、この段階では「このプロダクトを使用できなくなっても失望しない」と答えたユーザーの層は完全に無視しています。
なお、Superhuman社の事例ではアンケートの定性分析しか紹介されていませんが、実際には実際の業務に入ったり、プロダクトの利用シーンを観察したりすることになるでしょう。
PMFの検証ステップ(3):ユーザーが愛しているものと、愛する障壁になっているものにフォーカスして、ロードマップを立てる
Superhuman社の事例では、2の分析をベースに、「プロダクトが無ければ非常に残念に思う」ユーザーにより気に入ってもらうための機能開発と、「プロダクトは無ければ少し残念に思う」ユーザーの障壁を取り除く機能開発を進めています。同社ではコストとインパクトの観点から開発の優先順位を付け、開発ロードマップを作成し、開発を進めています。
以上の3ステップを何度も回し続け、どの程度「プロダクトが無ければ非常に失望する」ユーザーが増やせるか、あるいはリテンション出来るかがPMF到達のキーとなります。
B2B SaaS特有のPMF検証に向けた外部制約条件:Go-to-Marketに向けた理想の初期ユーザー
スタートアップのリソースには大幅な制約があります。そのため、スピーディーにPMF検証を行い、そのままGo-to-Marketに入ることが理想です。ですが、B2B SaaSの場合、そのスピーディなPMF検証を行うためには、「ユーザーがそのスピーディーな検証に付き合ってくれるのか?」という制約条件があります。
身近であった悪い例を出しましょう。知人の会社で、大企業をターゲットとしたB2B SaaSを開発していたスタートアップがあります。その会社は、VCの紹介で前向きな話が出来た業界最大手クラスの企業でトライアルを実施しようとしました。ところが、その企業にプロダクトを導入するために、セキュリティ要件を満たしたり、取締役の決裁を取得したりしなければならず(特に知名度の全くないプロダクトを使う理由の説明が大変でした)、結局PMF検証開始まで10ヶ月かかりました。加えて、担当者は定期的な異動で担当になったばかりの方で、プロダクトを使うモチベーションに低く、なかなか実際のプロダクトの検証やユース開発も進みませんでした。
このような企業ですと、PMF検証が全く進みません。B2B SaaSの場合、スピーディーにPMF検証を行うためには、ユーザーもそれに対応できる企業をを選ぶ必要があります。
一方で、Go-to-Marketに入る準備として、ユースケースの開発やロゴの獲得も必要だと述べました。大手企業のロゴは、Go-to-Marketに向けた非常に強力な武器になります。
PMFを検証する際、初期ユーザーとして、この前者の「プロダクトのスピーディーな導入」「担当者が積極的にプロダクトを活用する」と後者の「知名度」「業界に対するインパクト」が両立するユーザーを選ぶのが理想です。
このような企業が幾つかあります。例えば、知名度があるメガ・スタートアップです。また、業界や企業によっても、知名度の割に企業規模が小さかったり、現場の担当者が積極的にデジタルプロダクトを活用していたりする事例があります。このよう企業でPMF検証を行うのが理想です。他のアーリースタートアップの導入事例を見て、そこにアプローチをかけるのも一つの手段です。
今回はPMF検証の実際の進め方を考察しました。次回はSaaSのPMFの最終回として、どのような場合にPMF到達したといえるかに関して考えたいと思います。
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