仔羊肉とたっぷり野菜をコトコトと #タイム
Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary, and thyme...
ラジオの向こうから流れる「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム」という賛美歌のように崇高で神々しいハーモニー。サイモン&ガーファンクルのスカボローフェアという曲の一節。
調べてみたら、この曲は1966年にリリースされたらしい。何十年もの月日が流れ、しかも、あの曲を初めて聞いた日は、きっと歌詞の英単語すら聞き取れない子どもだったはずなのに、あの美しい旋律は今でもしっかりと記憶の奥底に刻み込まれている。
ただ、呪文のように刻まれた「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム」が何のことなのかを知ったのは、あれからずっと大人になってからだった。
パセリ
セージ
ローズマリー
タイム
いずれもヨーロッパの人々の暮らしの中にしっかりと根付いたハーブで、この歌の舞台になっているイギリスをはじめ地中海一帯の国々では、香草として香りそのものを楽しんだり、料理にアクセントとして加えてみたりする以外にも、家庭医療の大切な薬(メディカルハーブ)として重宝されている。
パセリが魚介類の臭いを、そして、セージが肉類の臭いを和らげる。セージとおなじシソ科のローズマリーは同様の消臭効果以外にも、その独特な香りが心を落ち着かせ、タイムは殺菌効果がある。タイムはまたハーブティーにするとミントのような爽やかさが楽しめる。
こういった使い方は、親から子へと生活習慣の一部として伝えられ、今でも都会から離れた片田舎では、何気ない生活の一場面にハーブがごく自然に取り入れられている。
そんな話をすると、たまに、お洒落だとか羨ましいとか言われることがある。けれども、全くお洒落でも羨望の的でも何でもない。
ローズマリーやタイムは家のすぐ側の野原に野生で生育しているし、パセリは購入するものではなく魚屋でもらってくるのが当たり前になっているくらい至極簡単に、しかもタダで手に入るのだから。
去年あたりから体調を崩し、ハーブティーにお世話になっていることもあって、ふとした拍子に我が家の小さなキッチンの片隅に、数種のハーブの鉢植えがやって来た。
以来、土が乾燥し過ぎてはいないか、葉は元気か、日が当たりは十分か、あら、ちょっと枝が伸びすぎかなと彼らの成長が気になって仕方がない。
子どもたちが成人し、こういう心配をすることが少なくなってしまったので、今度はハーブの世話をしているということなんだろうか。
結局、私ときたら、自由になりたいとか言いながも、誰かのことを気にかけていないと気が済まないお節介焼きなのだと思いがけずハーブたちに納得させられる。
そんな話を夫にしたら、「ハーブならスマホも学費はいらないからいいね」と急に現実世界に引き戻された。
子どもたちもハーブも、暮らしに彩りを添えてくれるのは同じこと。世話をやき、気にかけながらちゃんと愛情を込めてあげたいのよ。
間延びしたタイムの小枝を数本切り取る。タイムはハーブの中でも煮込みに適するので、子羊の肉とたくさんの野菜を一緒に煮込む。
「お、何か今日はいい匂いしない?」
早速、夫が嬉しそうに鍋の中を覗きにくる。
ほら、気づかない?
あなただって、子どものバスケ試合を見ている時と同じ顔をしているのよ。