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特別研究員コラム⑧:ダブルバインド            ~上司と部下のコミュニケーションに潜む落とし穴~               

 こんにちは、VCラボ特別研究員の黒木です。あっという間に3月、何かと異動の多い時期になりましたね。今まで慣れ親しんだ環境に変化のあるこの時期は、新しい環境に適応するため、周りを理解したり、自分を理解してもらうためのコミュニケーションが活発になりますよね。「分からなかったら、いつでも聞いてね」「できないことがあったら、早めに教えてね」「困ったら、何でも言ってね!」と、こんな声かけもよく耳にするシーズンです。そこで今回は、上司や先輩が、よかれと思ってかけたこの一言に潜む「ダブルバインド」という落とし穴について書いてみたいと思います。

ダブル‐バインド[double bind]  〘名〙 相矛盾する二つのメッセージを同時に繰り返して与えられた者が、そのいずれも信じることができないまま精神的外傷をこうむる状態。 ◇一九五六年にアメリカの人類学者G・ベートソンが提唱。二重拘束の意。

明鏡国語辞典より

ダブルバインド的コミュニケーション その①

 新しい部署に配属になり、新しい仕事を憶えなくてはいけない。新しい事ずくめの時は、精神的にも負担が多く、不安になりますよね。そんな時、優しい先輩に、「分からないことがあったら、何でも聞いてね!いつでも声かけてね」と言ってもらえると、それだけで心強くなり安心した、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。そして、いざ分からないことを聞いてみようとすると、「今忙しいから、後にしてくれる?」と、すごい剣幕で突き返された、というご経験をお持ちの方も・・・・。職場でよく見かけるこのコミュニケーションがダブルバインドです。「していいよ」といメッセージを受け取ったにもかかわらず、「ダメ」と言われる。矛盾したコミュニケーションによって、メッセージの受け取り手である部下には大きなストレスがかかります。そして、どうしたら良いか分からず、身動きが取れなくなることがあります。こういったやり取りが繰り返されると、部下は次第に聞くこと諦めてしまいます。

ダブルバインド的コミュニケーション その②

 今までに経験のない仕事をすることになった新入社員に対して、「教えてもらいながら、できるようになればいいよ」と声をかけたけれど、いざ蓋を開けてみたら、一般常識すら身についていない・・・「それぐらい、自分の頭で考えてみて」と思わず言ってしまう。こんなコミュニケーションもよく見かけます。「今は分からなくてもいいんだ」「教えてもらえるんだ」というメッセージを受け取った新入社員は、「自分の頭で考えなくてはならない」という矛盾した状況に直面します。そして、どこから教えてもらえて、どこまで自分で考えなくてはいけないのか、曖昧な状況にストレスを感じます。こういったコミュニケーションも繰り返しているうちに、だんだんと部下のやる気を削いでいきます。

気持ちのいいコミュニケーションには工夫が必要?!

 忙しい上司や先輩の、「後にして!」「それぐらい自分で考えようよ!」という心の叫び、痛いほどよく分かります。なぜなら、私自身、こういったコミュニケーションを過去にやってしまっていた経験を持つからです。
 ダブルバインドはメッセージの受け手側にストレスがかかるコミュニケーションとされています。しかし一方で、メッセージの発し手が本当に忙しいということも、「なんでも聞いて欲しい」「人材を育てたい」と思っているのも事実です。ビジネスの現場では、メッセージの発し手にも、受け手同等、またはそれ以上のストレスがかかっていると言えるでしょう。
 「教える立場」にいる人に大きな負荷がかかることを防ぐためにも、余裕を持って受け手とコミュニケーションをとることができる時間帯を見極め、共有することが大切だなと感じます。また、基本的なことは、できるだけ受け手にメモや文書にして記録してもらうように予め伝えたうえでコミュニケーションをとると、受け手側も集中して話を聞いてくれるようになります。
 ちょっとした工夫で、お互いのストレスを軽減でき、文字通り、「いつでも、なんでも聞ける風通しのよい関係」を築いていくことができるのではないでしょうか。コミュニケーションにストレスを感じた時、一呼吸おいて、ご自身が気軽にできそうな「工夫」を見つけていって下さいね!


一緒に頑張りましょ♪

特別研究員プロフィール
黒木 貴美子  (クロキ キミコ) 
ビジョン・クラフティング研究所 特別研究員
某大学院にて臨床心理学勉強中
精神保健福祉士