注目の作業療法の洋書ラッシュ②おまけ
改めて調べてみると、少しMOHOに関係する研究が出てきて、そのことを加筆すると前回の記事が長くなるので、研究についてはこちらに別にまとめて、再構成することにしました。一応、第6版がどう変化しそうかを考えてますが、今は作業療法もOBPはもちろん、EBPも重要視されているので、第5版もチェックしながら、EBPを行う際の資料になれば幸いです。
ここ最近のMOHOの研究の発展
第6版がどのように変化してそうかを予想するために、第5版以降(2019年以降)のMOHOを対象にした研究を、Model of Human Occupation、MOHOをキーワードにして、PubmedとOTDbaseで調べてみました。まあ詳しくは、第6版のエビデンスの章に載っているのだと思うけど、MOHOは研究と実践、応用のサイクルを循環させることで発展させていく理論かなと思うので、傾向が掴めるかもしれません。以下は研究とその要点を書いていきます。
①The experience of type 2 diabetes: Application of the Model of Human Occupation - Tara C Klinedinst, Laura A Swink, Karen E Atler, Christine A Chard, Matt P Malcolm, 2022 https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/03080226211026545
2型糖尿病(T2DM)患者(n=10)を対象にフォーカスグループインタビューを実施した研究。MOHOを適用して、T2DMとともに生活し、関連するセルフケア行動に関与する経験を調べた。その結果、参加者は、2型糖尿病(T2DM)を管理するための重要なニーズとして、家族との自己主張のためのスキルの獲得、個人に合わせた/適応した運動、安定した健康増進のための環境と日常生活、日常生活の乱れに対する問題解決スキルを挙げた。これらの介入戦略は、MOHOおよび作業療法の実践によく合致していた。そのため、MOHOは2型糖尿病(T2DM)の経験や日常生活のマネジメントを探求するための有用なツールであることがわかった。
②Occupational Therapists’ Experiences Using the Model of Human Occupation in Forensic Mental Health: Occupational Therapy in Mental Health: Vol 38, No 1 https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/0164212X.2021.1974325
Clの転帰を改善するためにMOHOがどのように使用されているか、またその使用において経験した利点と課題を探ること、参加者の教育や専門能力の開発が、MOHOの使用にどのような影響を与えたかを目的に調査した混合研究。MOHOは法医学精神保健(FMH)におけるCl中心の実践に有益であるが、法医学作業療法士は、MOHOの使用の恩恵を十分に得るために、MOHOの理解を深め続けることができるように支援されなければならないこともわかった。
③With MOHO, I am still “ergoning”! Or how the psychodynamic and occupational science approaches can enrich each other
Avec le MOH, « j’ergonne » toujours ! Ou comment les approches psychodynamique et en science de l’occupation peuvent s’enrichir https://revue.anfe.fr/2020/05/22/avec-le-moh- jergonne -toujours -ou-comment-les-approches-psychodynamique-et-en-science-de-loccupation-peuvent-senrichir/
精神医学において、フランスでは長い間、精神力動的な概念的枠組みのみが主流であったが、ここ数年、作業科学の概念の発展によるパラダイムシフトが見られている。そのため、ある事例をもとに、MOHOを用いたアプローチと精神力動的アプローチの可能性を探った。その結果、MOHOを使用し、それに心理力動的読解法を関連づけることで、私たちのアイデンティティの中心である活動を維持しながら、その人の作業への結びつきと参加を向上させることが可能であることが示された。
④Occupational therapy, cancer, and occupation-centred practice: impact of training in the model of human occupation https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32820529/
これは、第6版の筆頭著者の1人、Bowyer氏が関わった研究。がん専門病院で働く作業療法士の実践に、作業中心モデルのトレーニングが及ぼす影響について検討した質的研究。最初に、大規模ながんセンターで集団にまたがって働く、様々なレベルの経験を持つ10人の作業療法士が、MOHOに関する研修セッションを修了し、その後、日常診療におけるMOHOの使用に重点を置いたフォーカスグループに毎月参加した。その結果、作業に根ざしたモデルの専門職後研修は、腫瘍学的環境における作業療法士の治療的リーズニングと実践に影響を与えていた。
⑤Evaluating the use of the Model of Human Occupation Screening Tool in mental health services - Kinga Bugajska, Rob Brooks, 2021 https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0308022620956580
人間作業モデル・スクリーニング・ツール(MOHOST)の使用を評価するため、精神医療の現場で働く英国の作業療法士を対象に全国調査を実施した研究。n=105の質問票を分析した結果、MOHOSTは有用なツールであり、ほとんどのセラピストが有用性(74.7%)、使いやすさ(76.1%)、学びやすさ(81.2%)、満足度(80.6%)の項目で好意的な評価をしていることがわかった。MOHOSTは、介入の指針となり、評価された個人の包括的な概要を提供する、価値あるアウトカム指標として評価された。考えられる欠点として、時間の消費、理解しにくい用語、変化に対する感受性の欠如が指摘された。また、実際に使用する前に、使用する環境に対する適合性を考慮すべきであることがわかった。
⑥Treatment fidelity in Model of Human Occupation research - Patricia Bowyer, Melanie Morriss Tkach, 2019 https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0308022618803858
これも、第6版の筆頭著者の1人、Bowyer氏が関わった研究。MOHOの有効性に関する文献における治療の忠実性について検討した研究。関連する論文(n = 17)を、治療忠実性測定法(Treatment Fidelity Measure)を用いて治療忠実性についてコード化した。その結果、医療提供者の訓練戦略を報告し、非特異的治療効果を測定した研究は1件のみであった。人間作業モデルの研究における治療忠実性戦略の全体的な平均遵守度は0.57であり、1件の研究は0.80以上のスコアで高い忠実性を示した。人間作業モデルの有効性に関する文献は、時間の経過とともに治療忠実性のレベルが高くなる傾向にある。人間作業モデルの研究は、全体として中等度の治療忠実度を示していた。
⑦Understanding diabetes self-management using the Model of Human Occupation - Bel Youngson, 2019 https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0308022618820010
22人の糖尿病患者を対象に、参加者全員の生活体験を分析し、MOHOを用いて、作業的視点から糖尿病の自己管理の理解を探った研究。糖尿病の自己管理という作業は、相互に関連する7つの作業形態で概念化された。挑戦的課題は、作業同一性、意志、習慣化、遂行能力、というおよびこれらが行われる背景と関連していた。このことは、糖尿病の自己管理を作業として捉えることで、作業療法が糖尿病の自己管理において明確な役割を持つことを示唆している。人間作業モデルを用いることで、作業形態の特徴に焦点を当てることができ、作業への参加を成功させるためにこれらをどのように適応させることができるかを考えることができる。
⑧“Long-Term Impact of Model of Human Occupation Training on Therapeutic Reasoning.” Journal of Allied Health, vol. 48, no. 3, 2019, pp. 188–93. JSTOR, https://www.jstor.org/stable/48722839. Accessed 13 July 2023.
これも、第6版の筆頭著者の1人、Bowyer氏が関わった研究です。MOHOトレーニングが実践における治療的推論に与える長期的影響に関する作業療法士の視点を探った研究。以前に体系的なMOHO研修を受けたがんリハビリテーションセンターの作業療法士6名に対して、1対1の半構造化面接を実施した。その結果、MOHOの知識を獲得または拡大し、9ヵ月後もその知識を保持していた。また、より全体的でクライエント中心の作業療法サービスの提供や、MOHOの体系的な使用など、研修に関連した実践の変化を9ヵ月後の実践で理由づけをするために実施した。具体的な結果は、研究に関連したトレーニングの前にMOHOを使用した経験によって異なっていた。MOHOトレーニングは、がんリハビリテーションにおける作業療法士の知識習得と肯定的な実践の変化を長期的に促進していた。
⑨Contemporary occupational priorities at the end of life mapped against Model of Human Occupation constructs: A scop… https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35199343/
第5版、第6版の筆頭著者の1人、Taylor氏が関わった研究です。終末期の参加に関する優先事項と選好を明らかにし、人間作業モデルを用いて調査結果をマッピングすることを目的としたScoping Reviewです。帰納的に展開されたテーマは、意志(個人的原因帰属、価値、興味)、習慣化(作業遂行と日課と習慣)、遂行能力、物理的・社会的・作業的環境における生きられた身体という人間作業モデルの構成要素に照らし合わせてマッピングされた。発見の大部分は、意志の構成要素、特に個人的能力の感覚、自己効力感、価値観に関連するものであった。終末期には、たとえ参加が困難であっても、価値ある作業に継続的に従事することが優先される。病気が進行するにつれて、この参加や結びつきに対して影響力を行使し、コントロールする機会の重要性が増す。この時期の作業参加の経験には、個人的原因帰属が重要な役割を果たしていることがわかった。
⑩Development and Validation of the Occupational Self-Assessment–Short Form (OSA–SF) https://research.aota.org/ajot/article-abstract/73/3/7303205020p1/6571/Development-and-Validation-of-the-Occupational
これも第5版、第6版の筆頭著者の1人、Taylor氏が関わった研究です。急性期医療および急性期入院リハビリテーションにおけるOSA2.2の信頼性と妥当性を評価し、OSA-Short Form(OSA-SF)を開発し妥当性を検証した研究。参加者は、急性期医療および急性期入院リハビリテーションのCl86人で、 OSA 2.2とOSA-SFの心理測定学的特性を部分信用ラッシュモデルを用いて検討した。OSA-SFは、急性期治療や急性期入院リハビリテーションを受けている成人に対して、クライエント中心の目標設定や介入計画の指針となる有効で信頼性の高い尺度であることが示された。
11.An examination of the psychometric properties of the occupational identity questionnaire for community-living elderly who require care - Masataka Shikata, Hiroyuki Notoh, Kazuya Shinohara, Kenji Yabuwaki, Yoshikazu Ishii, Takashi Yamada, Renée R Taylor, 2021 https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1569186121997936
これは、日本の研究者である鹿田先生、野藤先生、篠原先生、薮脇先生、石井先生、山田先生に、第5版、第6版の筆頭著者の1人、Taylor氏が加わった研究。高齢者の作業同一性を評価するために、作業同一性質問票暫定版(OIQ-P)の心理測定学的特性を検討するための研究。参加者は、地元に住む要介護・要支援の高齢者135名(男性42名)であった。OIQ-Pの構造的妥当性、基準妥当性、内的一貫性を評価した。本研究により、OIQの構造的妥当性、基準妥当性、内的一貫性が確認された。OIQの臨床的有用性を高めるために は、解釈可能性の検討やOIQを用いた介入研究の実施が必要である。
12.Full article: Establishing the measurement properties of the Residential Environment Impact Scale (Version 4.0) https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/11038128.2022.2143891
これは、第6版の筆頭著者の1人、Fisher氏が関わった研究です。MOHOの評価の一つであり居住者に提供される環境支援のレベルを測定するために再構築されたResidential Environment Impact Scale Version 4.0(REIS)の心理測定学的特性を検討した研究。REISは、複雑な精神医学上のニーズを有する人々のための居住施設全体で実施された。REISの信頼性と妥当性を確立するために、多面的Rasch分析を実施した。REISは、環境の物理的、社会的、活動的要素がどのように参加を支援または阻害するかを詳細に評価するものであり、さまざまな生活環境に適用できる。
研究から予想する第6版の変化
ざっと調べて出てきたのが、上記の12の研究でした。先日は8だったので、もっと調べると他にもあるかもしれません。今回は海外のみにしてますが、日本での日本語による研究を入れれば、さらに膨れ上がるでしょうから、完全に網羅するのは難しいので、参考程度に考えてくださいね。
Taylor氏とBowyer氏が関わっている研究が同数で、多い結果となりました。内容としては、糖尿病やがん、終末期などといった、発症後自身のケアを含めて生活の中の作業が変わるClに対しての研究がいくつかあり、介入する際に有効そうです。あと、MOHOSTや急性期でのOSAの短縮版についての妥当性を検証した研究、REIS、そして作業同一性の尺度開発などのMOHOの尺度の研究がありました。これらは特に、第20章の「入院状態のMOHOの応用(急性期含む)」、第21章の「外来の身体的リハビリテーション、専門的ケア、在宅環境でのMOHOの応用」あたりの内容に影響を与えそうです。あと、作業同一性を評価できる評価自体がOPHI-IIしかなかったと思うので、OIQの開発も楽しみですね。これはまだ開発段階かもしれませんが…どうでしょうか?
また筆頭著者達のMOHO以外の研究を調べてみると、Taylor氏は意図的関係モデル(IRM)の開発者であり、MOHOと並行して研究を進めていたようです。以前、Taylor氏は、「MOHOにはIRMに書いて重要なことは全て載っている」みたいなことを言っていたので、IRMの研究結果も評価や介入の場面に影響を与えているかもしれませんね。小児領域の事例も担当するBowyer氏は、小児領域の自閉症の両親の質的研究など、やはり小児領域の研究を行ってました。Fisher氏は急性期医療における作業療法、作業療法における習慣に関する研究(こちらはMOHOの第6版の執筆者との共同研究でした)を行っていました。特に急性期は、慣れた生活環境へ帰る準備を円滑に進めるための働きとして、作業療法士の役割がこれまで以上に重要と考えられているようです。もしかしたらそういう流れで、OSAの短縮版を使い、介入していくことが書いてあるのかもしれませんね。
終わりに
MOHOの研究を改めてみると、医学的なケアが必要なClに対する研究が多かったように思います。例えば、急性期といえば医学モデルが強く、MOHOに限らず、世界的にも作業モデルを実施するのが困難だと考えられてきました。もちろん、欧米と日本という文化的背景や医療システムなどの状況などのコンテクストの違いがあるので、すぐに日本でもというわけにはいかないかもしれません。しかし、個人的には、研究を通してどのように変えていこうとしているか?などを学ぶ必要はあると考えています。
論文などを読むと、MOHOを開発したKielhofner氏は、「作業療法の理論やアイディアは医療の現場でこそ生まれるものである」、「作業療法とは、”therapy”である」という強い信念を持っていました。実際、論文ではtherapyでなくなることに危機感を表明しているほどです。また医療の現場にこそという点が作業科学を批判する理由になってました。MOHO自体、ベトナム戦争後の脊髄損傷のClの方のために開発したことを考えれば、作業療法(理論)とは、障害によって作業について苦悩するClのための人や家族のためのもの(治療法(Art)と良い介入に繋げる確かな知識(Science))という思いが強かったのかもしれません。
医学モデルの強い現場では確かに作業モデルが受け入れづらい、信念対立が起こって行いにくいのは確かにそうだと思いますし、共感します。でも今回の研究は、そうした困難な状況を支援してくれる結果が多いとも考えることができまるのではないでしょうか。上記の研究や今後出るであろう、MOHOの第6版の日本語版を通して、医療機関でも必要な人にOBPを提供しやすくなるといいですね。
以上長いおまけでした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
おまけのおまけ
Gary Kielhofner; Respecting Both the “Occupation” and the “Therapy” in Our Field. Am J Occup Ther July/August 2007, Vol. 61(4), 479–482. doi: https://doi.org/10.5014/ajot.61.4.479
これを読むと、Kielhofner氏自身がどのようなことを考えながら、人生を送ってきたのかが書いてあり、非常に興味深いです。そして最後の方に、
「かつて作業療法から作業が失われる危険性があったように、私はこの分野の学者が作業療法から療法(Therapy)を失う危険性を感じることがあります」。
そして「Reilly氏が主張したように、健康に影響を与えるために作業を使用するという作業療法のビジョンは、20世紀の医学から生まれた偉大なアイデアの1つになり得ます」と書いています。