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こんなに悔しいことはない

今朝の神戸新聞にただならぬ記事が載っていた。


シンコ漁「今年も休漁必要」

「個体数は前年の6割強と低水準」
「推定産卵量も平年値の約3%にとどまった」

(2025.1.10/神戸新聞朝刊)


ここでいう「シンコ」とは、神戸の特産であるイカナゴの稚魚のこと。
今ではすっかり全国的に有名となった神戸名産〈釘煮〉の原料となる魚のことだ。

兵庫県におけるシンコの年間漁獲量は、平成28年以前は1~2万トン、記録が残る中でもっとも多かったのは昭和45年(僕の生まれ年だ)の4万トン弱。
ところが平成29年からパタッと獲れなくなり、昨年はついに25トンのみ。

©兵庫県

昨年、大阪湾(淡路島より東側)は完全休漁、播磨灘(淡路島より西側)ではたった1日のみの漁だったことは記憶に新しい。

僕にとって、それがただ残念…で終わらないのには理由がある。

昨春、僕が主宰するnoteメンバーシップ〈ちょこっと倶楽部・フルコース〉のメンバーに、釘煮を炊いたらお分けしますと謳ったのだ。

神戸の多くの家庭で釘煮を炊くが、僕も母の釘煮を見よう見まねでここ数年炊いていて、徐々にうまく炊けるようになっていた。

2年前、最後に炊いた〈イカナゴの釘煮〉

これはひとさまに差しあげてもよいレベルに達したと判断した僕は、昨年メンバーシップのメンバーに分けようと思った。
まさか漁がたった1日で打ち切りになるとはつゆほども思わず…

果たして、シンコは手に入らなかった。
漁の解禁日、早朝から店に並んだにも関わらず、僕の順番が来る前に終売となったのだ。
まとめて買う人ほど列の先頭に多くいたからだ。
前夜からの徹夜組もいたに違いない。

シンコはたいてい1kgパックで売られるが、豊漁の頃は10kg、20kgとまとめて炊いて親戚に送るというのが多くの家庭の慣わしだった。
当時、神戸の郵便局には、炊いた釘煮をすぐ送れるよう専用のタッパーが窓口で売られ、「釘煮レターパック」なるものがあったほど。
そんな習慣があるから、列の先頭の人たちは遠慮しない。
単価は数年前の数倍になり、鯛より高いと言われたが、構わずまとめ買い。

これにはさすがに列の後ろからブーイングが起こる。
なぜこんなに少ないのに制限をかけないのかと店員に食ってかかる。
ただ、そういう人たちも、まとめ買いの習慣は知っているし、もし自分たちにも順番が回ってきたら後ろのことなど考えずまとめ買いしたからだろう、ブーイングは控えめだった。
まぁ今日手に入らなくても明日があるわ…と。
僕もそう思って、すごすごと手ぶらで帰った。
しかし、その明日はなかった。

当然のことながら、釘煮は作れなかった。
メンバーのみなさんに届けるために用意していた大量のタッパーも包装資材も出番なく終わった。
約束が果たせず、みなさんには平謝りだった。
せめてものお詫びに次年は多めにお届けしようと思っていた——

そこにきて今日の新聞記事だ。
イカナゴの個体数が昨年の6割しかいないということは…
「イカナゴ復活のため、今年も休漁など最大限の取り組みが必要」という県の談話が発表されたということは…
つまり今年はまったくの禁漁となることが予想されるのだ。

昨年も「イカナゴ復活のため」と漁を1日で終えた。
にも関わらず、今年は昨年の6割しかいないということは、もう復活が困難ということだ。

こんなことがあるだろうか。
神戸の誇る名産であり、今では近隣の明石や姫路、淡路島にまで家庭で炊きあげる習慣が広まった釘煮。
それがまったく作れないなんて…

乱獲が原因ではない。
温暖化による海水温の上昇、瀬戸内海の水質向上による貧栄養化が原因だ。
その証拠に北海道沿岸では近年シンコ漁が盛んになったと聞く。
神戸のスーパーには北海道産の釘煮が通年で並んでいる。

こんなに悔しいことはない。

メンバーシップ〈フルコース〉のみなさま
今年も〈イカナゴの釘煮〉をお届けできない公算が非常に高まっています。
なにとぞ事情をご賢察いただき、ご容赦願いたいと存じます。

(2025/1/10記)

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へんいち
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