それで十分、それがやっぱりうまい
昨日は大好きな蕎麦を食べに行った。
でも蕎麦アレルギー。
今のところ食べると喉が少し狭くなって痒くなるという程度だけど。
ただ、摂取した蓄積量が影響すると聞いたこともあるし、とくに蕎麦は重篤になりやすいとも聞くから、正直いつもびくびくしながら口にする。
昨日行ったのは、比較的リーズナブルにそこそこの蕎麦を楽しめる店。
そうなると、かけそば頼んで終わりではもったいない。
蕎麦前をちょっぴり楽しんでみた。
蕎麦前というのは、お酒のことだ。
その昔、江戸を代表するファストフードが寿司、蕎麦だったという。
関西のなれ寿司は魚に米を詰め込んで発酵させる保存食だったから、スローフードの代表ともいうべき存在。
それが江戸で、米に酢で発酵したかのような風味をつけ、魚を載せて食べるというなんちゃって寿司が生まれ、今そんなことを始めたらあまりのエセぶりに非難を浴びそうだが、これが大当たりし、今のにぎり寿司になった。
一方で蕎麦も、それまで食べていた団子のような蕎麦がきはゆがくのにとにかく時間がかかるから、麺のように切った蕎麦切りが生まれた。
これがせっかちな江戸っ子に人気の出ないはずがない。
とはいえ当時は冷蔵設備もないから、注文のたび手打ちしていたらしい。
ファストフードとはいえ、まぁまぁの時間はかかる。
そこで発達したのが、蕎麦を待つ間にちょっと一杯、という蕎麦前だ。
代表的なのは板わさだけど、その他、だし巻き卵や天ぷらなどをつまみに日本酒をキュッとやる。
より本格的な店に行けば抜きメニューというものがあり、天抜きなら天蕎麦から蕎麦を抜いたもの、鴨抜きなら鴨南蛮から蕎麦を抜いたもの、つまり蕎麦のトッピングだけを頼むことができ、これも蕎麦前のつまみになる。
昨日はそこそこの店なので抜きメニューなどはなく、定番の板わさだけで姫路の銘酒〈龍力〉を楽しんだ。
ふだん食べるスーパーのかまぼことは味の濃さも食感も違う。
わさびをツンと効かせ、醤油をチョンとつければ、はい、立派なつまみ。
厚みは均等にしてほしいけど。
さらに蕎麦焼酎の蕎麦湯割り。
これも蕎麦屋ならではの蕎麦前だ。
初めて飲んだが、ヒューンと鼻に抜ける蕎麦の香り、なかなかにうまい。
本当はもう一品、つまみを何か頼みたいところだったが、週末のランチタイムとあって店が混雑し、早々に〆の蕎麦へ。
ツウは蕎麦を噛まずに飲んで香りを楽しむとか、ツユは麺の先にだけつけて香りの邪魔をしないとかいろいろ作法があるそうだ。
薬味のネギは蕎麦といっしょに食べないとか、わさびはツユに溶かず一口ずつ蕎麦に少しつけるとか、も。
でも2杯のお酒で思考が緩んだ僕はただ豪快にズルズルと蕎麦をすすった。
それで十分、それがやっぱりうまい。
最後に蕎麦湯で心まで温めて、ホクホクと店を出た。
ちょっと喉、痒いけど。
(2023/10/22記)