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歌い始めたものを途中で放り出すわけにはいかない

小2の昼休み、皆が給食をだいたい食べ終えた頃合いを見計らって、担任がクラスに向かって声をかける。
「そろそろ始めるで」
子供たちに度胸をつけさせようというのか、毎日一人ずつ教壇に上がって好きな歌を独唱しなければならなかったのだ。

まずもって全員の注目に耐えられない子もいた。
さらに、課題曲を強制されるならまだしも、自由曲のチョイスをどう思われるかを気にする子もいた。
その一方で、将来の夢はアイドル歌手!と即答できるような女子は、喜んで歌だけでなく振付まで披露していた。

当時の歌謡界を席巻していたのはピンクレディーだ。
皆が皆、「ペッパー警部」「ウォンテッド」「UFO」「サウスポー」を選ぶのは自然なことだった。

くちびる盗む早わざは うわさ通りだわ
あなたシンドバッド
セクシー あなたはセクシー
私はいちころでダウンよ

小2にはずいぶん早い詞が教室に響きわたる。

あと数日もすれば、自分の番だ。
人前で歌ったことはなかったが、人前に立つ、人前で話すなどには何の抵抗もないどころか、小さい頃からむしろ好きな方だった。

あとは選曲。
皆が選ぶ曲とかぶるのは嫌だし、そもそもピンクレディーなんて恥ずかしくて歌えないし。
前夜いろいろ考え、そして決めた。

いよいよ当日。

ついに番が回ってきた。
教壇に立つ。

か~ら~す~ なぜ鳴くの~

クラスに一瞬ポカンとした空気が流れ、その後あちこちから笑いが起きる。

ヤバっ…

でも歌い始めたものを途中で放り出すわけにはいかない。
その覚悟が伝わったのか、笑い声もすぐ止んだ。

流行歌を聴く気満々だった皆の耳に、いきなり届けた童謡。
後にも先にも童謡を選んだのは僕一人だけだった。
ふぅ…

(2021/11/15記)

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