京の町には千年の風がゆったりと流れている
京都に行けば、つい寄ってしまう店がいくつもある。
おばんざい、麩料理、汁、お茶、和菓子、喫茶、パン、市場…
ジャンルをあげるだけでキリがないが、それぞれ寄りたい店が頭に浮かぶ。
阿ぶり餅 一文字和輔(いち和)
京の北に鎮座する今宮神社。
京都三大奇祭〈やすらい祭〉で知られるが、ふだんはひっそりと静寂。
この東門を出た旧参道に北面するあぶり餅の店を、通称〈いち和〉、正称〈一文字和輔(いちもんじわすけ)〉という。
創業は長和2年というから、なんと西暦1000年ぴったり。
平安中期から1020年の歴史を紡ぐ、日本最古の飲食店。
暖簾の「廿五代」(25代)もすごいが、「血続」もすごい。
店内の薄暗い地下に、平安時代に掘られた井戸も残っている。
屋根を突き出て青々とする松の木もすごい。
竹ひごに刺したミニサイズの餅にきなこをつけて炭火で炙り、香ばしい焦げ目がついたら甘い白味噌のタレをかける。
これが一人前、多く見えるが、一つが小指の先ほどなのでペロリ。
焦げに白味噌がからむと香ばしさが倍増するようだ。
この〈いち和〉の南向かいには、同じくあぶり餅の店〈かざりや〉がある。
両方行かねばと思いつつ、どうしても古い〈いち和〉に足が向き、〈かざりや〉にはまだ行ったことがない。
新しいといっても〈かざりや〉も創業400年、恐るべし京の都。
静かに今宮に詣ったあと、あぶり餅を頬ばるのがいい。
イノダコーヒ本店
泣く子も黙る、老舗の喫茶店〈イノダコーヒ〉。
創業昭和22年、神戸の老舗〈にしむら珈琲〉の1年先輩だ。
「コーヒー」ではなく「コーヒ」との表記は京流。
〈イノダ〉も〈にしむら〉も、昔はミルクも砂糖も入った状態でコーヒーが出てきたが、最近はオーダー時にどうするか聞いてくれる。
深煎りの〈アラビアの真珠〉はモカベース、しっとり深い味わい。
ふだんブラック派だが、〈イノダ〉と〈にしむら〉だけは、それが店のお勧めというのだから、ミルクも砂糖も入れてもらう。
スプーンにも小さな砂糖が載るが、コーヒーにすでに入っているので要注意である。
上の写真の後ろにボンヤリ写っているのが、池波正太郎をして文句なしにうまいと言わしめた〈ビーフカツサンド〉。
肉汁あふれる厚めのビーフカツを、パリッと焼き上げたパンが支える。
おっと、アップなのにこれもボンヤリ。
大学時代の編集プロダクションのバイトはこの近くだった。
正確にはすぐ近くにある〈イノダ〉三条支店の斜向かい。
プロダクションの主宰者は、昼ごはんはほぼ〈イノダ〉だったが、目と鼻の先の三条支店には絶対に行かず、頑なに歩いて数分の本店に行った。
味が違うのだそうだ。
京都市内に6支店あるが、やはり堺町三条下ルの本店で味わいたい。
京の町には千年の風がゆったりと流れている。
(2021/9/28記)