国産国消するだけで自給率が上がるわけではない
何日か前の新聞に「食料自給率を高めてほしい」という投書があった。
要約するとこんな内容だ。
確かにそう願いたい。
外国に依存する日本の食糧事情はまさに綱渡り状態だ。
いつ途絶えるか分からない輸入に頼らず、自給率を上げなければ…
しかし話はそう簡単ではない。
消費者が国産国消するだけで自給率が上がるわけではないのだ。
過去にこんな記事をあげたことがある。
食料の生産には大量の水が必要であり、食料を輸入するということはそれだけ外国の水を日本人が消費していることになるのだ、という話。
仮想的に消費する水という意味で「バーチャルウォーター」と呼ぶ。
コーヒー1杯落とすのに水は160cc使う。
しかしそれはあくまで飲むときに必要な水の話。
1杯分のコーヒー豆10gを生産するには、210Lの水が必要なのだ。
この210Lがバーチャルウォーターということになる。
ほとんどの人は、それだけの水を消費している感覚はないだろう。
豆腐と揚げの味噌汁――まさに日本の朝の象徴といえる。
しかし、豆腐も揚げも味噌も、すべて原料は自給率6%の大豆だ。
大豆の自給率こそ100%にしよう!と叫ぶのはたやすいが、計算してみると無理なことがすぐ分かる。
2020年の大豆の年間輸入量は328.7万t。
大豆1kgの生産に必要な水は2,500Lというから、輸入分の大豆を国内で生産するには82兆1,750億Lもの水がいることになる。
日本最大の湖・琵琶湖があと三つ必要な計算だ。
それが不可能なことはいうまでもない。
国内でまかなうには人口が多すぎるのだ。
では自給率を上げる手段はないのだろうか。
いや、日本は恥ずべき食品ロス大国ではないか。
それを減らせば、輸入量も減らすことができる。
日本の食品ロスの量は、世界中で飢餓に苦しむ人たちに援助される食料の倍ほどになるというから恐ろしい。
わざわざ輸入しておいて、最終的に廃棄されることになるなんて。
食品ロスをゼロにしたところで自給率100%にはまだ遠いだろう。
それでも冒頭の投書の「一人一人の意識」が、国産国消だけでなく、食品を無駄にしないところにまで及ばないことには、何も始まらない。
(2022/10/19記)