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高級店にはない庶民派イタリアンが根づいている

神戸の老舗ピッツァハウス〈ピノッキオ〉。
毎年ノーベル文学賞の発表日にはハルキストたちが村上春樹の受賞を願い、この店に集まってくる。

神戸で育った村上春樹が学生の頃に何度も訪れ、震災後に神戸を歩いたエッセイで紹介した店なのだ。
少し長いが引用してみよう。

散歩がてら山の手の小さなレストランまで歩く。ひとりでカウンターに座ってシーフード・ピザを注文し、生ビールを飲む。一人の客は僕しかいない。気のせいかもしれないが、その店に入っている僕以外の人々はみんなとても幸福そうに見える。恋人たちはいかにも仲が良さそうだし、グループでやってきた男女は大きな声で楽しそうに笑っている。たまにそういう日がある。運ばれてきたシーフード・ピザには「あなたの召し上がるピザは、当店の958,816枚目のピザです」という小さな紙片がついている。その数字の意味がしばらくのあいだうまく呑み込めない。958,816? 僕はそこにいったいどのようなメッセージを読みとるべきなのだろう? そういえばガールフレンドと何度かこの店に来て、同じように冷たいビールを飲み、番号のついた焼きたてのピザを食べた。僕らは将来についていろんなことを話した。そこで口にされたすべての予測は、どれもこれも見事に外れてしまったけれど…。でもそれは大昔の話だ。
(村上春樹「神戸まで歩く」『辺境・近境』新潮社, 1998)

〈ピノッキオ〉では頼んだピザにシリアルナンバーがついてくる。
村上春樹のシーフード・ピザは、〈ピノッキオ〉開店以来958,816枚目だ。

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ピッツァハウス〈ピノッキオ〉。

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店は狭く、山小屋のような雰囲気。

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サラミとオイルサーディンの〈神戸っ子ピザ〉を頼む。
カリカリのピザ生地に塩気のきいたトッピングが、うまい。

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これがシリアルナンバー。

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これからあなたがお召上りになるピッツァは、当店の創業以来1358567枚めです
村上春樹がエッセイに書いたのが2017年だから、この20年ほどで40万枚もの注文が入ったことになる。
20年で40万枚、なるほど。

他にも看板商品〈ピノッキオ・ピザ〉を頼んだ。

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ホワイトソースたっぷりの、まるでグラタンのようなピザ。
これは1358568枚目、もちろんうまい。

「神戸はイタリアン不作」と書いたグルメ雑誌を以前目にしたことがある。
なんのなんの、高級店にはない庶民派イタリアンが根づいている。

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どうも最近、食記事が多い。
こんなはずではと思いつつ、第1号の記事を読み返してみると、どうやらこうなる運命だったようだ。

しかも、第2号の記事以降、「おいしいもん(再び)」「おいしいもん(三たび)」…と続き、「福島の餃子」「大阪のおでん」など食記事多数。
そんなことすっかり忘れていたが、おいしいもんを食べたい気持ちは不変。
これからも遠慮せず、ドシドシ書いていこ。

(2021/8/13記)

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