文具を通してきっと神戸まで好きになってしまうはずだ
神戸に〈ナガサワ文具センター〉という老舗の文具店がある。
明治15年の創業時は〈長澤紙店〉といったらしい。
文具の老舗といえば銀座〈伊東屋〉。
だが〈ナガサワ〉のほうが20年ほど歴史は古い。
ちなみに「文具」と「文房具」の違いをご存じだろうか。
ナガサワの屋号に入る「文具」は、何でも揃うの意なのだ。
文具店は、小学生でも立ち寄る身近な存在。
だが今やスーパーやコンビニ、書店などの異業種にも文具が置かれるようになり、文具店の存在感は低下した。
オフィスの御用聞きという役割もネット通販の台頭で一気に崩れ、正統派文具店は苦境に立たされている。
しかし、ナガサワは歩みを止めない。
三宮センター街のナガサワ本店の一角には、〈PenStyle DEN〉という万年筆のコーナーがある。
万年筆ファン垂涎の品揃え。
どれだけデジタル化されても書く文化のすばらしさを広めたい、とはナガサワ社長の弁。
この店に来ると、ものを書くのはやっぱり万年筆よなといつも思う。
さらに、ナガサワといえば「Kobe INK物語」。
神戸市内の各地域をイメージした色のインクを次々作って、なんと82色。
はじまりは、六甲の深い森の色を愛用の万年筆に忍ばせたい、と企画担当が作った〈六甲グリーン〉だった。
続いて、メリケン波止場の青空を映す〈波止場ブルー〉が誕生し…
そして続々増えた。
僕が小中高時代を過ごした塩屋は、こんな色だ。
攻めるナガサワ。
地域に根ざし、他店が思いもつかない商品開発を続ける限り、ネットの脅威など歯牙にもかけないに違いない。
僕の手元の、ナガサワから来たものたち。
五線譜のメモは、頭に浮かんだメロディを書きとめるためのものだが、最近なかなかできていないな。
しまい込んでいたガラスペンにももっと活躍の場を。
直径3cmの地球もナガサワから。
北極と南極に仕込まれた磁石で、ふだんは冷蔵庫にピタッ。
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観光途中なら、ハーバーランドにある神戸煉瓦倉庫店もいい。
文具を通してきっと神戸まで好きになってしまうはずだ。
(2022/9/27記)