おにぎりたるもの、こうでなくては
なんだかお腹がすぐれないとき、味の濃いものは食べたくない。
でも昼を抜くと午後から力が出ない…
おにぎりだけでいいけど、コンビニのは添加物まみれで気持ち悪いしな。
そんな時は米専門店のおにぎりを。
神戸には〈神明〉という米卸業者がある。
明治35年創業の老舗で、全国のブランド米を扱って業界のトップを走る。
この〈神明〉が神戸元町・栄町の本社ビル別館で営業しているのが、おにぎり専門店〈五穀豊穣 米処 穂〉だ。
以前はミニ定食のようなものがあったが、今はこんなご時世だからか、プラスチックケースに入った単品おにぎりやおかずを選ぶ方式。
といってもおにぎりは握りたてでまだ温かく、これは嬉しい。
「枝豆と塩昆布」「焼き鮭」の二つのおにぎりに、味噌汁をチョイス。
不調の胃腸にぴったり。
枝豆はゴリゴリしてよいアクセントに。
焼き鮭は…日本人には共通の旨さ、あえてここで書く必要はないだろう。
しっかりにぎられてるのに、パクッといけば口の中でホロホロほどける。
まるで「ガッテン!」で試したかのような絶妙なにぎり方だ。
おにぎりたるもの、こうでなくては。
実のところ、関西で食べるならやっぱり俵形がいいのだけど。
現在主流の三角形のおにぎりは大人になるまで見かけたこともなかった。
店内はシンプルで美しい。
この神明別館ビル、元は旧帝国生命保険神戸出張所として1921年に建てられた登録有形文化財。
そんなレトロビルでおにぎりなんて、それだけで胃腸の不調も吹っ飛ぶ。
そして最寄り駅の地下鉄海岸線・みなと元町駅の駅舎はこんな赤レンガ。
実はこれ、あの東京駅で有名な辰野金吾が設計し、1908年に建てられた旧第一銀行神戸支店の外壁なのだ。
阪神大震災で壊滅的な被害を受け、外壁2面のみ残して中に近代的なマンションが建ち、1Fにはケーキショップ、地下には駅ができた。
元生命保険に、元銀行。
そう、ここ栄町は往時の神戸の金融街だったのだ。
明治から昭和初期にかけ、日本最大の商社として鈴木商店がこの栄町に育ち、この通りは栄華を極めたという。
かつて正岡子規をして「その美、その壮、実に名状べからず」と言わしめ、「東洋のウォール街」「栄町を歩けば下駄の歯に金貨が挟まる」とまで評されたこの界隈については下記の記事が詳しい。
鈴木商店は米騒動で焼き討ちに遭うなどし、その後衰退したという。
また阪神大震災でレトロビルの多くは倒壊し、この町の賑わいも過去のものとなった。
大正の米騒動の地で、日本最大の米卸業者の営む専門店のおにぎりを今。
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持ち帰ったお品書きを見てみると、おにぎりがこんなにたくさん。
しまった、玄米を選べたのか!
そっちを食べたかったのに…
鈴木商店もびっくりの、栄町で抱いたささやかなわがままだ。
(2021/8/29記)