あのおじいちゃんだからめちゃくちゃでも許されたのだ

――変わった玉子サンドがあるらしいから、行かない？

変わったゆうて所詮、ゆで玉子とマヨネーズとパンやろ？
そんなん行かへん行かへん！

――ゆで玉子ではないらしいよ、厚焼きのオムレツだって。

ん？　行く行く！　さっきから行くゆうてたやん！　早よ行こ！

レストラン〈コロナ〉

かつて京都・西木屋町四条下ルに〈コロナ〉というレストランがあった。
知る人ぞ知るの人気店だった。

西木屋町は路地といってよいほど狭隘な通り。
そこにひしめく小さな店舗の中に〈コロナ〉があった。
外壁のメニューには「ポークカツレツ」「ハンバーグステーキ」と並び、ここが洋食屋であることが分かる。

人気だったのがおじいちゃん店主の作る、ざっとした玉子サンド。
実は玉子サンドというより、このおじいちゃんが名物だったのだ。

写真の当時、御年95歳。
周囲を不安にさせるゆっくりした動きながら、1人前に卵4個を豪快に投入。

デミグラスを塗った食パンの上に、玉子焼きをドテッと落とす。

玉子が冷えて固まる前に手早くならす。

手早く、手早く…

…ならしきれていない。
ざっとした玉子サンドのできあがり。

塩がかたよって入って、局所的に辛いこともままある。
卵の殻が入っていたことも、もちろんたびたびある。

しかしこの玉子サンドを食べるために、開店前から長蛇の列ができた。
知る限り玉子サンド以外の注文が入っているのを見たのは一度か二度…

2012年、惜しまれながら閉店した。

喫茶〈マドラグ〉

二条城近く、押小路通西洞院東入ルの喫茶店〈マドラグ〉。
僕はまだ行ったことがない。

〈マドラグ〉は〈コロナ〉の玉子サンドを引き継いだという。
なんでもおじいちゃんが引き継いでほしいとお願いしに来たそうだ。

あの玉子サンドの再現となると、ざっとしてるんかな…
ネットで〈マドラグ〉公式の画像をたぐる。

えー！　めっちゃきれい！

〈マドラグ〉店主のインタビュー記事がおもしろい。

コロナは卵に牛乳少し、塩コショウ、味の素しっかり入れてました。耳切る時に玉子も切るから1個分くらいはロスしてたでしょうね。あとほとんどオムレツに卵の殻が入っていました。
ソースは日によってめちゃくちゃでしたね。今日妙に甘いなと思ってマスターに何塗ってるの？って聞いたら「オイスターソース！」って。デミグラスがなかったんですね。3回に1回はハズレでした。
（「喫茶マドラグは京都喫茶店文化の救世主だ」©ぐるなび）

引き継いだとはいえ、〈マドラグ〉では味の素を昆布ダシに代えたり、牛乳を増やしたりとずいぶん手を加えたらしい。
〈コロナ〉ではあのおじいちゃんだからめちゃくちゃでも許されたのだ。

〈マドラグ〉は昨年、神戸にも店を出した。
〈マドラグ〉の玉子サンドであのおじいちゃんを思い出せるかは分からないが、今度ちょっと試してみたい。

（2022/1/18記）