僕の話はほとんどしなかったが、それでいいと思った
数日前、愛媛でお世話になったネット通販の担当氏が、20年ぶりに僕をググって探し出して連絡をくれ、飲みに行った話を載せた。
担当氏から「ご無沙汰しております」とメールが来たのは11月初めのこと。
今月初め、再び「ご無沙汰しております」とメールが届いた。
誤って同じメールを再送信してきた?と思ったが、差出人が違う。
愛媛時代のお客さんからだった。
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愛媛の村おこしでは爆発的な人気商品を製造し販売していたが、供給が追いつかず、購入は店舗、通販、出張販売のいずれも困難だった。
そんな状況になったのは2004年からだったが、それは僕が退職した2019年でもまだ変わらなかった。
通販は毎月50名が購入できる抽選方式だったが、応募者は毎回5000名にもなり、倍率は100倍だった。
応募コメントには「今度こそ!」などの意気込みが多く書かれるなか、何でもない日常や近況、僕へのメッセージなども200件ほどあった。
僕は毎回そのすべてに目を通して返信したが、膨大なはずなのに返信が来たと驚く人も多かった。
出張販売も、全国どこでも開店までに並ばないと買えない状況だった。
ある日その騒然とした列の中、女性から「先日、娘が四国の大学を受けることになりました、とコメントしたら返信が来て驚きました。もしかしてあなたからですか?」と声をかけられた。
たしかに僕は「四国でお会いできるかもしれませんね。娘さんにがんばってとお伝えください」と返したが、その娘さんを連れて来てくれたのだった。
その後何通もメールを交わしたが、残念ながら僕の退職でそのやりとりも途絶えてしまっていた。
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今月初め「ご無沙汰しております」のメールをくれたのは、その人だった。
聞いてほしい話がある、背中を押してほしいという。
そして昨日、遠路はるばる神戸に来てくれた。
僕は〈グリル十字屋〉でその人を待った。
一昨日のメンバーシップ限定記事「おでかけティップス~神戸の洋食~」で紹介した昭和8年創業の老舗洋食店だ。
3日かけて作るデミグラスは絶品そのもの。
3年ぶりに再会したその人からは積もる話がとめどなく、十字屋で1時間、場所を移した喫茶店で3時間、僕はずっとその話に耳を傾けた。
内容はとても濃く、その人にとって言いにくい話も多く含まれたが、でも未来に向けての足がかりを見つけ、手応えを感じている様子が伝わってきた。
僕の話はほとんどしなかったが、それでいいと思った。
今この人にとって必要なのは、この3年間の苦労と奮起を言葉にして話し、これから歩いていくための礎にすることだと思ったから。
いつでもどこでも話聴きます。
だからどうかご安心ください。
(2022/12/13記)