オープニングのワインを発注する前に
Vol.013
これには、やはり熟考しました。
Vol.7の“ディアリオ ヴィーノサローネ”で綴ったように、ラインナップするワインの骨格を決め、ショップのオープニングは赤ではなく白ワインで、しかも、白ワインの名産地として名高い、フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州産に絞り込みましたが、そのワインの売値で悩みました。
そのむかし、ファッションエディターの仕事は、金勘定はそんなに重要ではありませんでした。編集者にとって大切なことは、「好奇心に基づいた企画力」。そう信じて疑いませんでした。
たとえば、ロケでモデル撮影を実施するときの経費。スタッフ移動のロケバス代、ロケ地の撮影場所代(金額はまちまち)、朝食代、昼食代、軽食&飲料代あたりが、撮影当日にかかるお金です。
撮影が終われば、モデルのギャランティ(原則は撮影前に決める)、フォトグラファー、スタイリスト、ヘア&メイク、ライター、そして構成を担当する自分のギャラ。足し算するぐらいがファッションエディターの、いわば計算能力です。
ただし、雑誌1ページに掛かる経費(出版界ではペータン、といいます)は、どのくらいかかっているかは知っておかなければなりません。これをおろそかにして、湯水のごとく経費を垂れ流していると、出版社の社員であれば、編集部異動の候補として目をつけられます。フリーランスなら、静かに仕事の依頼が減っていくでしょう。
話が横道に逸れてしまいました。
つまり、ファッションエディターの経験は、様々な経費を差し引いて、利益を導きだすワインの値づけで役立つとはいいがたい。仕入れ値が3,000円の場合、いくらで売ればいいのか。何本売ればビジネスとして見合うのか。インポーターが示す標準小売価格あっても、すぐに値付けの見当がつきませんでした。
いまは便利ですね。ググれば、商いのやり方がいくつも出てきます。玉石混交としていても、そのなかから内容を精査すれば、基本的なことはサイトの情報で十分だと思えました。
調べていくうちに気づいたのは、まず、ワインを販売する規模のイメージが大切だということ。小さくはじめるヴィーノサローネを考えると、オープニングで販売するつもりでいたワインが、売値から見るとあまり適切ではないことがわかってきました。
サイトに立ち寄ってくれた方が、「このくらいの金額なら買いたい」と、興味を持ってもらえる価格はいくらか。同時に、ヴィーノサローネの値づけとのバランスを考え続けました。いまも、考えています。
固定費、原価、配送料、手数料、値入、売値、売り上げ本数、利益……、ワイン1本売るだけでも、商売のすべてが含まれています。
それが「モノをつくって売る」という、ファッションエディターの仕事とは意味合いが違う、「モノを仕入れて販売する」というビジネスの形です。いまにして“値決めは経営”という、京セラ創業者にして経営の達人こと、稲盛和夫さんの言葉が、ズシリと響いています。
次回の“ディアリオ ヴィーノサローネ”に続きます。