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描かれる言葉たち 『こといづ』

ふと手にとって開きたくなる本。
呼吸をするように、自分の中にその言葉を、言葉たちが纏う空気を吸い込みたくなる本。
海外へ引っ越す時にさよならした本たちもあるが、この本だけは真っ先に船便用のダンボールに大事にしまった。

筆者の高木正勝さんは、音楽家でもあり映像作家でもある。
兵庫県のある村で生活しながら、『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』といった映画をはじめ、伊右衛門等のCM、NHK朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』の音楽等、色々な場面で音楽を届けている。
『こといづ』は、そんな高木さんの初めてのエッセイ集である。
最初から読んでも良いし、読みたい月のページを開いて眺めてみるのも同じ季節を感じられるようで楽しい。

エッセイ集ということで心に留まったことや自分の中に生まれてきた音等が描かれているのだが、何度読んでもそこに紡がれている言葉のぬくもりや鮮やかさにはっとさせられる。
季節を追って描かれる言葉たちは、今目の前で一緒にその風景を見て、感じているかのような気分にさせてくれるのだ。
言葉は本来「書く」ものだと思うが、高木さんの言葉は「描く」という言葉の方がしっくりくるくらい色彩に溢れている。

近くを流れる小川のせせらぎ
もう降りやまないのではないかと思うような雨
葉っぱから落ちようとする雫を照らす雨上がりの太陽
本のページをそっとめくっていくような優しい風
誰にも気づかれずにそっと蕾をつける小さな花

過ぎてゆく日常に優しく瞳を向け、耳をすませ、心と体いっぱいにその空気を、あたたかみを感じること。
高木さんの綴る文章は、人間も自然の一部であることを改めて感じさせてくれるとともに、あるがままの本能や感性が瑞々しく輝く姿を見せてくれる。

今日もまた、彼の「山咲み」を聴きながら、残り少なくなった8月のページを開く。

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